過疎化進む山間部の町でひとり住む迅(しゅん〜宮沢氷魚)のもとに、大学時代の恋人・渚(藤原季節)がひさしぶりにやってくる。なんと彼は6歳になる女の子を連れ、いま離婚協議中の身にあると。とまどう迅の気持ちをよそに居候をきめこむ渚…。男性同士の恋愛と彼らをとりまく環境のゆくえを真正面から探った作品。監督はこのところ多作の今泉力哉。
先進的なゲイカップルそしてまだまだ封建的な部分が残る山間部のムラ社会という、一般的には対極にあると思われるふたつの存在を、正面からぶつけたところが興味深い。主役を演じるふたりも、まだ俳優としての手あかにまみれていないせいか(まあ宮沢氷魚にお父上の幻影を見ないひとはいないと思うが)、その恋愛模様にとてもみずみずしいものを感じさせる。
脇では鈴木慶一がいい味。この出演はずいぶん前に聞いたがすっかり忘れていた。なのでいきなり顔を見てビックリ。まあこれは登場の仕方にも依るんだけど。山間部の猟師役は物語のスパイス的存在。今回はセリフあり、というか実に味のある重たい言葉をいくつか。助演男優賞までとはいかないけど、彼の俳優歴において最高の役柄といっていいのでは。
出口の見えなかった調停裁判の急速な収束にどこまでリアリティがあるのかわからないし、終盤全体の流れがちょっと楽観的かな、あるいはいろいろ議論を呼ぶようあえてそう設定したのかと思ったりもするが、「愛がなんだ」「アイネクライネナハトムジーク」と、このところの今泉作品同様、この監督は人間の良心というものを固く信じているひとではと強く感じた次第です。
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