1973年ローマで起きた実話。石油王ジャン・ポール・ゲティの孫ポール17歳が何者かに拉致され、犯行グループが母親ゲイルに要求した身代金はなんと1700万ドル。ところがカネに卑しいゲティはビタ一文払わないと公言、世間を驚かせゲイルの苦悩はさらに深まっていく。巨匠リドリー・スコット、「オデッセイ」「エイリアン コヴェナント」に続く監督作品。
オープニングからエンディングまで、なんとも苦々しい味ばかりを引きずる誘拐劇。口当たりのいい誘拐物なんてもちろんないけれど、ドキドキハラハラしつつも解決に向かって一直線に進むこれまでのものとは違って、終始どこかでドロドロしたものに侵食されているような感触、全編暗めでセピア色に満ちたスクリーンの色合いがその陰鬱な気持ちに拍車をかけていく。
母親ゲイルは、誘拐犯だけでなく身代金を出さないという義理の父ゲティとも闘わなくてはならず、その疲弊ぶりたるや凄まじい。ただこういう打ちひしがれた女性を演じるにはまさに適役といえるのがミシェル・ウィリアムズ。ハリウッドの華やかさとはちょっと違った立ち位置にいる彼女だけど、ここ数作における存在感は圧倒的、大器晩成的な女優と言えるかも。
そしてこの作品最大の苦々しい存在がクリストファー・プラマー演じるゲティ翁。その徹底した守銭奴ぶり、孫の誘拐さえも錬金術のひとつとする狡猾さには、怒りを通り越して呆れることばかり、まったく感情移入できないまま物語は一応の解決、大富豪のゆがんだ金銭哲学が最後にもたらしたのは…。後味もけっしてスッキリしたものではなかったように思いました。
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