ことしのアカデミー賞で外国語映画賞を獲得するも、トランプ政権の入国制限命令に抗議してイラン人監督アスガー・ファハルディ(「別離」「ある過去の行方」)および主演女優タラネ・アリドゥスティは授賞式をボイコット…タイムリーなトピックだったせいか一般的なニュースとして広く世界に知れ渡ったこの話題、まさにそのオスカー作品がようやく公開。
アーサー・ミラーの戯曲「セールスマンの死」公演中の劇団、その看板俳優同士そして実生活では夫婦でもあるエマッドとラナが主人公。ふたりが引っ越して間もないアパートメントの浴室で、エマッドの留守中ラナは何者かに襲われる。やがてそこに以前住んでいた女性はいかがわしい行為を生業とし、ラナを襲ったのはその顧客だったと判ってくる。
復讐心に燃えるエマッドが犯人を突き止めていく過程がストーリーの大きな柱となっているけれど、サスペンス的な要素はそれほど強くなく、スッキリとした謎解きの感触が最後に用意されているわけでもない。むしろ男女の性差から生じる事件にたいする夫婦の感情のズレや、イラン社会特有の他者とのかかわりかたが興味深く思えた。
並行して描かれる舞台公演のようす、そして団員たちの人間模様も面白く(かっての邦画「Wの悲劇」を思わせた)、一方アパートメントの一室で展開するクライマックスのワンシーンは、それこそ舞台劇を観るような緊張感であふれ、この虚と実が混じりあうエンディングこそ、この監督の作品特有の味わいだと思わずうなった次第です。
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