「クリスタル・ジャパン」CM撮影のとき、ロケ地としてこの正伝寺を推したのはボウイ自身だったという。京阪電車の終点・出町柳から、賀茂の流れをさかのぼるようにして走る路線バスにゆられて30分。ヘンピなエリアのせいか、ほとんどの観光ガイドブックで無視されているスポット。地図で見るかぎりではもっと山間部かと思っていたけど、ちょっとした新興住宅地だったのは意外。
ところが寺門が目の前にせまるあたりから急に山深くなり、美しい木々に囲まれつつゆるやかな坂道になった参道を歩くことに。目の前にひろがるのは緑だけでなく翠も碧もあるような色合いの妙、それは昨年訪れた苔寺(西芳寺)の庭園(ボウイ楽曲「モス・ガーデン」発想の地)を思わせて、なるほどボウイが愛するわけだなと勝手に納得する。
とても日曜日の午後とは思えない静けさ。小川のせせらぎしか聞こえず、本堂の入口で拝観料を払うあたりまでは誰ともすれ違わない。いまごろ京都メジャーどころスポットはとてつもない喧噪だろうと得をした気分になり、来るなら来てみろ外国人観光客と言いたくなってくる。この秘めたる空間を教えてくれたのはイギリス人(ボウイ)なんだけど。
本堂に入り、CMでチラッとだけ映っていた枯山水の庭園に向かう。苔寺でそうしたように、最初はそこで「クリスタル・ジャパン」をスマホから流そうと思っていた。でもあまりの静けさにためらってしまい、結局は脳内再生にとどめてそのぜいたくな時間をすごした。ボウイが逝ってちょうど半年だと気がついたのはそのとき。この庭園の素晴らしさに関してはまた明日ということで。
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