会場に一歩足を踏み入れたとたん三島由紀夫に睨まれる。ゾッとしてすぐ隣へ目を移せば大原麗子がこちらを見つめている。彼女を少しだけ長く愛したあとはきんさん・ぎんさんそして美空ひばり…。ここは昭和の時代にタイムトリップかと思いきやAKB48や壇蜜もちゃんと用意されている。黒柳徹子のセミヌードなどというサプライズもある(1969年撮影なのでご安心を)。
どのくらい引き延ばしてあるのだろう、ひとつひとつの作品の大きさがハンパでなく、まずはそのスケールに圧倒される。そしてそのカラフルな色彩。市井の人たちをのぞいては被写体のほとんどが日本国民誰もが知る偶像(アイコン)ばかり。大相撲関係者全員をおさめた“シノラマ”には相撲マニアの血が騒ぐ。1995年の撮影、新弟子時代の旭天鵬を遠くに発見し自慢したくなる。
市井の人たちというのは東日本大震災で被災した東北のひとたち。モノクロのポートレート9点に14名。老若男女のみなさん、特に悲しい表情をしてカメラの前にたたずんでいるわけでもなく、すべての写真にガレキの山が写っているわけでもないのに、こちらはその向こうにあるストーリーに思いをめぐらせてしまい自然と涙があふれてくる。
ジャンルを問わず旬の人の一瞬の表情を切り取るという意味では、どうしても一昨年あたりから何度も味わっている鋤田正義さんの作品群と比較してしまいます。写真作品にあまりくわしくないこちらとしてはその違いを言葉で表現するだけの力がなくて…。幾度となく鋤田作品にふれたみなさん、ぜひこの写真展もご覧になってその違いを説明していただければと思っています。
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