これを境に何かが変わってしまい、もう二度ともとの自分に戻れないと感じたある日。若き村上春樹は、街を歩き回り、適当に選んだジャズ・バーに入る。聞きたい曲をバーデンダーに問われ、マイルズ・デイヴィスの「フォア・アンド・モア」と答える。バーボンをオンザロックで頼み、グラスとその中の氷を眺めながら、春樹はこう感じる。
それはまさに、僕の求めていた音楽だった。
何年間か前の冬、太田和彦の「ひとり飲む、京都」を課題図書に、京都の町を飲み歩いてみたことがあった。確か四条木屋町あたりの雑居ビルで、とあるアーティストの曲だけを朝まで流しているとの貼り紙を見つけた。
薄暗い店内で、年配の女性店員に問われリクエストした曲が流れた。
ひとりでも私は生きられるけど
でもだれかとならば人生ははるかに違う
強気で強気で生きてる人ほど
些細な寂しさでつまづくものよ・・・(中島みゆき「誕生」)
これがまさに、僕の求めていた音楽だ! なんてね。
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