青森山田の選手がミドルレンジからシュートを放つ。GKが左手を思いっきり伸ばしてダイブする。そしてそのボールはその手を逃れながらもゴールの枠の外に飛んでいく。
ど〜っと湧くスタンド・・・・
この感覚はいつ以来だろう。地鳴りのような声が国立のスタンドを襲う。
2年前の決勝戦。前年優勝の青森山田に立ち向かうのは歴史も伝統も、そして何よりも人気を誇る静岡学園。ボクはその試合を埼玉スタジアムで観ていた。早々に2点を先制した青森山田に対して前半ロスタイムに1点を返し、後半2点を奪って逆転勝利した静学。たまたま静学側のバックスタンドにいたボクは試合終了と同時に誰かれ構わずハイタッチをし抱き合う光景を目の当たりにした。56025人が入ったその試合でそれは当たり前の姿だった。
あの時の静学の背番号10で主将だった荒木君は現在鹿島アントラーズで活躍しており、1年生ながら背番号7でピッチを駆け回った松木君はこの試合で背番号10を背負い主将を務める。
今日の試合の観衆は試合中に42747人と発表された。第100回全国高校サッカー選手権の決勝。青森山田対大津・・・・
これまで圧倒的な力で勝ち上がってきた青森山田。6−0という試合が2つもあり準決勝まで17得点で2失点。これで4年連続の決勝進出である。
対する大津も初戦を5−0で勝ち上がると2回戦では優勝経験も豊富な東福岡を4−0と完封、さらに昨年の優勝校山梨学院に勝ってきた佐賀東も3−1と退けまさに九州代表というポジションから強豪の前橋育英を1−0で打ち破った。準決勝こそ関東泰一がコロナ辞退となったための不戦勝だったが、彼らはその試合中止によってのコンディション維持と気持ちの制御が難しかったかもしれない。それでもボクがフクダ電子アリーナで観た前橋育英に対する厳しい守備の力で1点を守り切った試合から青森山田に対してもまずは守備重視となると思った。
実際に開始数分は大津が支配したが、すぐさま青森山田がペースを握った。それでも守備が強い大津は青森山田の攻撃を凌いだ。大津のGK佐藤君は高いボールに強く何度もパンチングで防ぐ。それでもさすがは青森山田だった。前半の途中からは高いボールを放り込むのをやめて鋭いボールを多用した。低い弾道からのCKに丸山君がコースを変えるヘッドで先制すると2点目はサイドをえぐってからのグランダーのクロスに那須川君がスライディングで合わせた。
後半も青森山田ペースは変わらなかった。大津はボールを奪ってパスで回しても青森山田のプレッシャーがきつくどんどん下がっていく。前線に放り込んでもヘディングはほとんどが競り負けた。大津は結局シュートを1本も放てなかった。
青森山田は後半も2点を追加して圧勝したが彼らの貪欲な勝利への執念はものすごかった。点を入れるたびに雄たけびを上げるその姿は接戦でやっと勝ち越した時のようだった。2点差としても3点差となっても4点差となっても同じだった。
青森山田が圧倒的に強いだろうということは我々のような一般のファンはわかっている。それに対して一番わかっていなかったのが青森山田の選手たちだった。強いと言われて4年連続の決勝進出だ。しかし2年前は静学に逆転され昨年は山梨学院にPK戦で敗れている。
優勝を知らないダントツの1番人気。昨日の大学ラグビーの帝京のようだ。そして試合終了のホイッスルがなると膝から崩れ落ちたのは青森山田のほうだった。それほど集中していたのだろう。
国立でその優勝を称える歓声は2年前の埼玉スタジアムで経験したあの大歓声にはもちろん及ばない。だが、声出し禁止という今回の国立で一人が発する「おおっ」というわずかな声や「ああっ」という小さなため息も42000倍もすればこれだけの大きな歓声となるのだということを改めて感じた。いままで当たり前だった大観衆による大歓声。2年前の埼玉スタジアム以来のどおっと湧く地響きの中で戦った両校は勝敗に関係なく貴重な体験をしたはずだ。
成人式すらままならないこの時代において・・・・・
2022年1月10日 第100回全国高校サッカー選手権 決勝(於 国立競技場)
青森山田4−0大津
(青森山田は3大会ぶり3度目の優勝)
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