プロコフィエフもソヴィエト３巨匠の一人に数えられる作曲家であるが、ハチャトゥリアンより
一回り上の世代でありロシア革命をより強く肌で感じている。ソ連の作曲家であるが、
厳密にはウクライナの作曲家である。若い時は前衛的な作品を作曲していた。
1918年、ロシア革命によりロシア帝国は崩れ、プロコフィエフは亡命する。その後、作風が
変わって新古典派の一人に数えられる作曲家となった。プロコフィエフに言わせれば
分かり難い作品は聴衆に受けない。ゆえに分かりやすい作品を、と云う事だが、この人は
一筋縄ではいかない。19日前に「ロメオとジュリエット」を聴いたが、あれが典型であろう。
不協和音でも躊躇なく突っ込んでいく。それが自分のスタイルと合わなくて聴いて来なかった。
しかしながら今夜は辻さんが演奏する、と云うので予習してきたがホールで楽器編成を見ると
ティンパニーがない。逆に大太鼓、小太鼓。そしてカスタネット。意外と大きな編成ではない。
今回はヴァイオリン協奏曲第２番と云う事で当然ながら先行して１番が存在するが大フィルの
指揮者でもある「角田鋼亮さん指揮／東京フィルの皆さんと１番を演奏し」た辻さん自身の
コメントによれば「２番は、１番の瞑想的で不思議な世界観とは違い、もう少し形がはっきりして
いる作風という印象があ」るとの事。実際、作曲された時期が18年も離れている。１番は1917年
で26歳と若い頃の作品であるが、こちらは1935年44歳の時の作品。年齢も違うが、その間、
亡命という大きな出来事があった。その関係で本曲、フランス人ヴァイオリン奏者ロベール・
ソータンのために書かれ、初演もソータンがソリストを務めてスペイン・マドリードで行われた。
本曲はヴァイオリンソロから始まるので、まずは辻さんに注目した。私はホール最後尾から
聴いていたが弱音なのだが、こちらまではっきりとソ♭シレ♭ミドレが聞こえた。感覚的に
♭ミドレが余分。余分な事をして規範から外れるのがプロコフィエフなのである。
しかしながら、このソ♭シレ♭ミドレが動機で第１楽章では何回も出て来る。ヴァイオリンだけで
演奏される訳ではない。コントラバスがこれを奏すると地から音が響くような感。ティンパニーが
いないので大太鼓がリズムを調えるが、音がドンドンと一色。そうかと思えば唐突に小太鼓が
現れる。ト短調は♭２つの短調だが、第２楽章ここで♭が１つ増えて変ホ長調Es-durに転ずる。
下属調の平行調に転ずる方法はベートーヴェンが、よくやった方法であるが、本楽章ソリストの
ロングトーンが頻出する。辻流の解釈は「祖国を懐かしむような美しい旋律」。本曲がフランスで
書き始められた事を考えると腑に落ちる。完成はソ連帰国直後であったが。
第３楽章はト長調に転調する。非常にリズミカルな演奏に私も乗せられてきた。何故なのか、と
プログラムノートを読むと「スラヴ風舞曲のリズムに乗って古典的なロンド形式を展開する」と
あった。なるほど本曲にも舞曲が潜んでいた。最も中村孝義さんの言う古典的とは検証を要する
と考えるが何せ、どこまでもプロコフィエフなのである。遂にカスタネットまで出て来た。
怒涛の終曲。満場の拍手に応えて何度も辻さんと秋山さんが出て来た。曲目の都合上
ソリストアンコールは、なし。物足りないので家に帰って辻さんのＣＤを聴いている。(つづく)
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