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2020年05月30日12:51

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桃尻な芭蕉

「笠着て馬に乗りたる坊主は、いづれの境より出でて、何をむさぼり歩くにや。このぬしの言へる、これは予が旅の姿を写せりとかや。さればこそ、三界流浪の桃尻、落ちてあやまちすることなかれ。
   馬ぼくぼく我を絵に見る夏野かな」
芭蕉「夏野の画賛」(新潮日本古典集成『芭蕉文集』より)

『芭蕉文集』を読んでいたら、「三界流浪の桃尻」という言葉が出てきた。
芭蕉の「桃尻」?
桃尻と言えば、橋本治の青春小説「桃尻娘(ピンク・ヒップ・ガール)」の名前が浮かぶが、読んだことがない。
古典語に「桃尻」なんてあるのかと思って大野晋ほか編の『岩波 古語辞典』を見ると、「桃尻」とは、

「馬に乗るのが下手で、鞍に尻が落ちついて坐らないこと。桃の実の尻が坐りが悪いので、それをたとえたもの」

とのこと。
自分のことを「三界流浪の桃尻」とみなし、「落馬してケガをするなよ」と自分に呼びかける。40歳にして悟りきれずに彷徨い歩く自分、世渡りが上手とは言い難い自分を、冷静に、しかし多少の諧謔を含めて見ているような気がする。

他の辞書では『徒然草』の第188段にも用例があるとのことであり、調べてみたら確かにあった。徒然草は何度か読んでいるが、気に留まらなかった。こちらは、なかなか教訓的な段。

【追記】
ネットで検索すると、現代では「桃尻」は「垂れ尻」の逆の意味で「美尻」とされているようだ。橋本治は古典にも詳しいので、たぶん古語的な意味を知ったうえで言葉で遊んでいたのだと思う。

◆芭蕉の乗った馬たち
http://home.cilas.net/yunami/monogatari/monogataribasyo.html
◆「徒然草」第188段
https://tsurezuregusa.com/188dan/
http://www2.yamanashi-ken.ac.jp/~itoyo/tsuredure/turedure150_199/turedure188.htm

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