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2020年05月13日23:12

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各種の現代語訳−源氏物語雑想002

知人から、「源氏物語は誰の現代語訳で読むのがよいか」という質問を受けたので、自分なりの感想をまとめてみた。

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「源氏物語」をいきなり原文で読むのはなかなか大変だ。
というわけで、まずは現代語訳から手を着けるというのが現実的だと思う。その現代語訳には各種あって、どれで読むべきか迷う。以下に、各種の現代語訳について、僕なりに感じている特徴を記してみる。
どれを選ぶかは、「目的」と「相性」によるだろう。

「ゆくゆくは原文を読む」という覚悟があるのであれば、多少は苦労してでも玉上訳か小学館版などの「学者」による訳で読むのがよいと思う。その上で、原文の一歩手前で谷崎訳を読めば楽しめるだろう。

とりあえず通読してみたいということであれば、円地、瀬戸内、林、角田などの「作家」による訳の中から、自分と相性のよいものを選べばよい。相性がよいかどうかは、図書館で借りるか本屋に行って、10ページほど試し読みをしてみれば分かる。それで苦にならなければ、相性としてOKだろう。源氏物語の通読は「長旅」になるから、この「相性」は意外と大事だ。
もし、どれを読んでも「苦」を感じてしまうようであれば、
「読書に王道は無い」(There is no royal road to Reading.)
と覚悟を決めるしかない(笑)。

【玉上琢彌訳】(角川ソフィア文庫・全10冊)
◆長所
・学者による訳として、原文から外れず、とても信頼できる訳。
・一冊の中に「訳」と「原文」があるので、相互に参照が可能。
・疑問に感じるところがあれば、図書館から玉上による『源氏物語評釈』を借りて、より専門的な解釈や異説なども確かめることが出来る。
◆短所
・文庫版は文字が小さい。冊数が多い(10冊)。
・基本的に色気や味気は無い。

【円地文子訳】(新潮文庫・全6冊)
◆長所
・美しい日本語。
・豊かな心情描写。
◆短所・注
・円地による独自の「書き加え」が多少ある。
・やや古い「昭和」の日本語で書かれている。
・新版(全6冊)と旧版(全5冊)があるので、古本で買うときには注意。新版は表紙などに「一」とだけ書かれていて、旧版は「巻一」と表記している。

【瀬戸内寂聴訳】(講談社文庫・全10冊)
◆長所
・比較的、原文に忠実で、現代的でクセの少ない訳文。
・文字が大きい。
◆短所
・やや味気ないか。

【谷崎潤一郎訳】(中公文庫・全5冊)
◆長所
・文体や文のリズムまで含めて原文に近い訳にしようとしている。
・流麗な日本語。
◆短所・注
・「主語の省略」や「文の長さ」まで原文に近づけているため、源氏について予備知識の少ない初心者には分かりにくく読みにくいと思われる。
・文語の旧訳、口語の新訳、新新訳の3種がある。中公文庫版は新新訳。

【林望訳】(祥伝社文庫・謹訳源氏物語・全10冊)
◆長所
・読みやすい名文による現代語訳。
・注記的なものも本文に織り込んでいるため、予備知識の少ない初心者でも、本文を読んだだけで内容が理解できる。分かりやすく、他に比べて一歩踏み込んだ理解が出来る。
◆短所
・説明を本文に織り込んでいるため、全体の分量が多い。(10冊)
・単行本版は完結。「改訂新修」となった文庫本は、まだ第3巻までしか見たことが無い。

【與謝野晶子訳】(角川文庫・全訳源氏物語・全5冊)
◆長所
・現代語訳としては一番「古い」が、訳し方は極めて斬新。
・表現が直接的で分かりやすい。
・各巻頭に與謝野自身の各巻について詠った和歌があり、それだけでも文学的な価値がある。
・テキストだけであれば、 青空文庫などから無料で読むことができる。
◆短所・注
・和歌は原文のみで、訳(説明)が無い。
・かなり個性的(独断的)な訳の部分もある。
・抄訳の「与謝野晶子の源氏物語」(全3冊)が同じ角川文庫から出ているので、間違えないように注意。

【渋谷栄一訳】
・何の「オマケ」も無い学者訳。以下から無料で読むことが出来る。
http://www.sainet.or.jp/~eshibuya/?fireglass_rsn=true

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【その他】
以上のほかに以下のような現代語訳(全訳)があるが、十分には読んでいないので、コメントに確証は無い。

◆角田光代訳(河出書房新社・日本文学全集)
・立ち読みして「今どきの高校生に読ませるとしたら、こういう日本語になるんだろうなぁ」とは感じたが、結局、買わなかった。個人的な相性の問題だと思う。これからの読者にとっては「定番」になるかも知れない。

◆小学館版
・「原文」「訳」「注」が揃っており、執筆者は一流の源氏研究家であり、信頼できる。読んでいて疑問に思ったときなどは、よく参照する。古本屋に出ていることもあるので、これで読むのもよいと思う。
・「日本古典文学全集」版(全5冊)、「新編 日本古典文学全集」版(全5冊)、「古典セレクション」版(全16冊)など、版を変えて出されているが、内容に大きな変更は無い。

◆今泉忠義訳(講談社学術文庫・全8冊)
・一応は「学者」訳であるが、あまり参照したことが無い。

◆大塚ひかり訳(ちくま学芸文庫・全6冊)
・『源氏の男はみんなサイテー』『日本の古典はエロが9割 ちんまん日本文学史』などの著者(早稲田大学一文卒)による訳。
・「源氏のセックス年表」(第三巻)や「薫のセックスレス年表」(第五巻)などの付録は充実しているが、個人的には性に合わないかも(笑)。

◆上野榮子(日本経済新聞社・全8冊)
・「主婦」訳として話題になったみたいだが、疑問が残る訳し方もあった。あえて選ぶ必要も無いと思う。

◆学者による全訳には、この他にも何種類かある。

ちなみに僕は次の順番で読んだ。
(1)玉上「現代語訳」(角川ソフィア文庫)(2012年7月)
(2)玉上「原文」(角川ソフィア文庫)(2014年9月25日)
(3)岩波文庫旧版「原文」(山岸徳平校注)
(4)円地文子訳(新潮文庫)
(5)「日本古典文学全集」版(小学館)の「訳」と「原文」を併読

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主な現代語訳に関する情報
◆玉上琢彌訳(角川ソフィア文庫・全10冊)
https://www.amazon.co.jp/dp/4044024014
◆ 円地文子訳(新潮文庫・全6冊)
https://www.amazon.co.jp/dp/4101127166
◆瀬戸内寂聴訳(講談社文庫・全10冊)
https://www.amazon.co.jp/dp/B008B5CGAS
◆林望訳(祥伝社文庫・謹訳源氏物語・全10冊)
https://www.shodensha.co.jp/genji/
◆角田光代訳(河出書房新社・日本文学全集)
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000290.000012754.html
◆谷崎潤一郎訳(中公文庫・全5冊)
https://www.amazon.co.jp/dp/4122018250
◆小学館版
https://www.shogakukan.co.jp/books/09658020
https://www.shogakukan.co.jp/books/volume/23138

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