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2019年11月24日16:53

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「レオニー」－イサム・ノグチの母

以前から「観たい」と思っていた映画「レオニー」のＤＶＤを観た。

「レオニー」というのは、国際的な彫刻家であるイサム・ノグチの母親レオニー・ギルモアの名前だ。イサム・ノグチは、僕にとっては、故郷である「札幌」と母校である「慶應義塾」をつなぐ人物の一人でもある。

札幌市民であれば、市内でも最大級の広さの「モエレ沼公園」が、晩年のノグチによる「大地の彫刻」であることをご存じだろう。そして若き日のノグチは、戦後復興期の慶應義塾の三田キャンパス内の校舎の設計にも関わった。そのため、慶應義塾にはノグチの彫刻などがいくつか残されている。

どうしてノグチが慶應の復興に関わったかと言えば、彼の父親が慶應義塾大学・英文科教授であった野口米次郎だったからだ。しかし、イサムと米次郎の関係は複雑であった。
渡米中にレオニーに恋した米次郎は、イサムを身ごもったレオニーをアメリカに残したまま日本に帰国し、さらに日本人女性と結婚した。つまり、当時の日本の常識からすれば、レオニーの地位は妾であったわけだ。
イサムを連れて来日したレオニーは、日本ではそうした女性が公的な職に就くことは難しいことを津田梅子から告げられる(映画の中では。実話かどうかは不明。)。このことは、独立心とプライドの強いレオニーを深く傷つけたことだろう。

青春期をアメリカに戻って過ごしたイサムは、学校ではギルモア姓を名乗っていたが、彫刻家として個展を開くことになったときには「NOGUCHI」姓を名乗るようになる。父親への特別な感情もあったのだろう。そんなイサムが再び日本に行こうとしたとき、父・米次郎は「ノグチの姓を名乗って日本に来てはいけない」という手紙を息子に送る。父と再会したイサムは「葛藤する感情をどうしようもなかった」。

満州事変が勃発し、イサムは米次郎と和解することなくアメリカに帰る。その後のイサムの境遇について、ウィキペディアは次のように記す。

「第二次世界大戦の勃発に伴い、在米日系人の強制収容が行われた際には自らアリゾナ州の日系人強制収容所に志願拘留された。しかし、アメリカ人との混血ということでアメリカ側のスパイとの噂が立ち、日本人社会から冷遇されたため、自ら収容所からの出所を希望するも今度は日本人であるとして出所はできなかった。ノグチは後に芸術家仲間フランク・ロイド・ライトらの嘆願書により出所、その後はニューヨークのグリニッジ・ヴィレッジにアトリエを構えた。」

敗戦後の１９４７年、米次郎は胃癌のために逝去する。死の直前には日本人の息子たちに異母兄がいることを告白し、彼との和解を遺言したらしい。

慶應義塾にしてみれば、「妾の子」であるイサムは(元)教授のスキャンダルの種でもありえたはずだ。どうして慶應義塾は、イサムに校舎のデザインを依頼したのか。

「天は人の下に人をつくらず」

という「先生」の教えからすれば、「出生」にこだわること自体がナンセンスでもあったかも知れない。また、後にイサムが
「父が四十年間教えていた慶應大学のために、何かをつくるようにとの提案があった。この仕事を父と人々との和解の行為だと思い、私は一途に打ち込んだ」
と述懐しているとのことだから、父の生前には修復されることのなかった父子の関係のことを思っての依頼でもあったのかも知れない。

映画の主人公は、イサムではなくレオニーだった。
以前に「イサム・ノグチ」の伝記を読んだときには、米次郎については、無責任で身勝手な非道い男という印象しか持てなかった。しかし、この映画の中では、アメリカでは自由な表現者として振る舞いながら、日本では世間体を気にするばかりの保守的な男として描かれているものの、それほど「悪く」は描かれていなかった。同じ男を見る場合でも、妻から見た夫と、息子から見た父親では、もちろん「違って」しまうのかもしれない。

しかし。波乱万丈のレオニーの生涯のうち、その不幸な側面の多くが米次郎に起因したことは確かだろう。そんな米次郎との間にできた息子を国際的な彫刻家に育て上げたのがどのような女性であったか。この映画は、その点を見事に描いていた。

レオニーの研究家である電気作家のエドワード・マークスは、この映画を３度観て、そのたびに異なる感想を抱いたそうだ。確かに、３回くらい観るに値するかも知れない。