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2020年08月01日00:06

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赤字になって喜ぶ日本の公益法人

 月が替わって8月になりましたが、あいかわらず新型コロナウイルスの感染拡大の傾向が収束していない以上、今月も感染者数の増減に振り回されることになるのでしょう。
 コロナ禍については、先日、仕事で接した記事で、欧米のフィランソロピー・セクター(日本の公益法人やNPO法人を想定していただいてよいでしょう)が積極的に大きな役割を果たしつつあることを知りました。
 例えば、ビル&メリンダ・ゲイツ財団は、最貧国向けワクチン提供事業に5年間で16億ドルの支援を行うことを表明しました。
 また、フォード財団も、新型コロナウイルス対応に向けた追加資金調達のため、10億ドルのソーシャル・ボンドの発行を表明しました。同財団は、感染拡大で打撃を受けた貧困層の援助と格差是正に取り組む非営利組織支援に調達資金を充当するとしています。
 これらに対して、日本の公益法人がこうした目立った動きを積極的に見せた例は未だ耳にしません。一応、新型コロナウイルス対策関連事業を開始した公益法人は9法人あるそうですが、その活動はいずれも小規模、限定的なものにとどまっているようです。
 どうしてこんなことになるのかというと、日本の公益法人は「収支相償原則」と「遊休財産保有制限」の下、今次のコロナ禍のような非常事態に対応するための基本財産の蓄積を制限されている(と思い込んでいる)からなのだそうです。なぜ、そんな原則や制限があるのかというと、かつて公益法人が巨額の内部留保をため込んでいたことがあり、これに対する規制を強化する必要があったからです。
 この規制強化の流れは、1996年の与党行政改革プロジェクトチームの提言で加速し、2008年の公益法人制度改革後の新法にも引き継がれているものです。
 でも、90年代にやり玉にあがったのは、補助金・委託金がつぎ込まれたり、独占的事業(検査、検定、資格付与など)が官庁に保証されたりして多額の利益を上げていた行政委託型の公益法人や、何百万人という会員を抱える公益法人が、余ったカネを返還もせず、かといって公益事業の拡大にも使用せず、カネを内部にため込み(その多くが天下り官僚の退職金に充てられた)、しかもそれが無税ということが問題視されたのであって、そのような問題と全く無縁な大多数の公益法人まで、お咎めを受けるべき筋合いの話ではなかったはずなのです。
 また、公益法人制度改革に提言した識者、専門家等の認識としても、「収支相償原則」等は、公益法人の基本財産の蓄積の制限を狙って打ち出されたわけではなく、公益の増進という本来の趣旨から、公益目的事業の収入は(内部に溜め込まずに)すべて公益のための費用に適正に充てるべきであるという極めて常識的なことを狙いとしていたようです。
 なのに、2008年の公益法人制度改革で出来上がった条文はなぜか次のようなものでした。

公益法人認定法5条6号(公益法人の認定基準)
 その行う公益目的事業について、当該公益目的事業に係る収入がその実施に要する適正な費用を償う額を超えないと見込まれるものであること

公益法人認定法14条
 公益法人は、その公益目的事業を行うに当たり、当該公益目的事業の実施に要する適正な費用を償う額を超える収入を得てはならない。

 これでは、あたかも公益法人は黒字を出してはいけないかのように読めませんか? 実際、今でも、上掲フォトのような、ある種分かりやすい(?)図を示して、これらの条文は説明されているようです。これは上述の識者・専門家の認識や本来の趣旨を誤解したものでしたが(説明に当たった行政官庁の役人も誤解していた!)、誤解されてもしょうがない文言だったと言えるでしょう。
 その結果、2014年頃には(おそらく大部分の公益法人では今も)、こんなことがありました(フィクションの笑い話ではなく、実話です)。

 公益法人Aは、8,000円の黒字が出ることが予想されたため、行政庁に対処策を尋ね、指導を受けた結果、何とか少額の赤字をひねり出すことに成功した。
 そこで、その公益法人Aの決算理事会で事務局長は次のような報告をした。
「おかげさまで多少赤字を出して、収支相償はクリアーできました」。
 唖然とした企業出身の理事は、こう質問せずにはいられなかった。
「言葉の使い方が間違っていませんか、残念ながら赤字を出してしまいました、ではありませんか?」。

 事務局長は、なんと、せっかく出そうだった黒字をわざわざ赤字にして喜んでいたのです(赤字になれば公益認定が取り消されず、したがって税制面での優遇が続きますから)。完全なモラルハザードです。現象としては、予算を使い切るために全国で期末に集中する無駄な道路工事とたいして変わりありません。
 まぁ、最近では、「公益目的事業に係る収入」と「その実施に要する適正な費用を償う額」との比較を単年度では行わず、中長期的に見る等の工夫をして、単年度ごとに公益法人が公益認定の取消しをおそれてビクビクせずに済むように運用面での工夫が見られるということですが、そうだとしても、なんというみみっちい話かと思います。
 上述のように、欧米のフィランソロピー・セクターが自国のみならず、全人類の公益の増進を図って積極的に巨額の財源の有効利用に乗り出しているというのに、この国の公益法人はちまちまとした赤字を出して喜んでいる。その気の遠くなるようなあまりの落差にめまいを覚えてしまいました。
 2008年の公益法人制度改革後、公益法人の数が増えていない(むしろ、公益認定の取消し等があって減った)のも、そりゃそうだろうなと思います。赤字になったことを喜ばねばならないような公益の増進ならば、誰もわざわざ法人を作って公益認定を受けようとは思わないことでしょう。
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