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2020年02月29日00:25

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子豚の丸焼きに負けたオペラ改革論

 甲子園球場での阪神タイガースのラッキー7(7回ウラの攻撃)は、いつもこの高らかなファンファーレで始まります。
https://www.youtube.com/watch?v=doDAENvuidg

 このファンファーレについて、最近、Wikipediaで、え、まさかと言いたくなるような記事を目にしました。なんと原曲がロッシーニ(上掲写真左)の『狩りでの出会い』というのです(https://ja.wikipedia.org/wiki/ロッシーニの楽曲一覧#管弦楽作品)。
 こちらの曲です。
https://www.youtube.com/watch?v=NZgeWX5KpHw

 でも、なんか微妙ですよね。まぁ、アレンジのしようによっては、あのラッキー7のファンファーレになるのかもしれませんが、かなり遠いですよね。ガセかもしれません。

 甲子園球場での阪神タイガースのラッキー7のファンファーレの原曲については、同じロッシーニの『ウィリアムテル序曲』だとする見解もネットにはありました。
https://www.youtube.com/watch?v=e1l59fXt8fQ

 こちらの方はテンポや雰囲気がラッキー7のファンファーレに近いともいえそうですが、でもこれをアレンジすると、あのラッキー7のファンファーレになるかというと、これもいささか微妙な感じがします。
 何より、どういうわけかラッキー7のファンファーレそのものについて論じた文献をネットでは見つけることができなかったので、真偽のほどは分かりません。

 ただ、原曲になっているのであれば、ロッシーニを選んでくれたのは幸いでした。
 天才作曲家とか、大作曲家とか呼ばれている人には、無闇に気難しい人や、矢鱈と不幸な人、若死にした人、そうでなければ性格破綻者が多いのですが、そんな中にあってロッシーニは比較的人間臭く、大オペラ作曲家でありながら、37歳であっさりとオペラの作曲から引退し(他の分野の曲の作曲は細々と続けた)、好きな料理三昧の日々を楽しみ、豊かな人生を送ってくれた人だからです(今でもフランス料理では“ロッシーニ風”と付けられたものを時々目にします。一般的にはフォアグラやトリュフを使った料理のことです。上掲写真中央は“フォアグラと牛フィレ肉のロッシーニ風”)。
 これに対して、同じ大オペラ作曲家でもワグナー(上掲写真右)は正反対だったと言ってよいでしょう。音楽評論家の石井宏さんは、次のように書いています。

 彼は常識的な意味ではほとんど自己管理の能力のない男で、自分の物は自分の物、人の物は自分の物、という思想の持主であると同時にその実践者で、借金をしては踏み倒し、人の女房を何度も自分の物にした。自分という天才に世間が貢ぐのは当たりまえという考えを抱き続け、最後にとうとう狂王(かどうか)ルートヴィヒ二世を騙して巨額の金を捲き上げたうえに、バイロイトに劇場を作らせ、この若い王の失脚と死を招くのである。
 その彼の理想の劇場であるバイロイトは、客が途中で中座しないように、客席の間に通路がない。客はイヤでも長い幕をじっと坐ったままで動けない。客たるものは、天才の音楽を中座する権利はないと宣告されているのである。ニーチェがワグナーのことを、「あらゆる芸術家の中で、最も無礼で聴衆をバカにした男」と呼んだ気持がよくわかる。
(石井宏著/『帝王から音楽マフィアまで』P319〜320より)

 そんなワグナーがパリで料理三昧の日々を楽しんでいるロッシーニの自宅を訪ねたという興味深い出来事がありました。再び石井さんの筆が踊ります。

 まだ駆け出しのワグナーは、この巨匠に認めてもらおうと、例によってオペラの改革に関する長広舌をぶち始めた。ロッシーニは相槌を打ちながら聞いていたが、五分おきに「失礼」といって席を立っては戻ってくる。一時間もぶちまくったワグナーは、ロッシーニがたびたび中座するのに腹を立て、「先生、あなたは私の話を聞いていないのですか」と言った。するとロッシーニは「いや、聞いていますよ」というので、ワグナーは「それでは、なぜたびたび席を立つのですか」と聞いた。ロッシーニは少しも驚かず、「いや、今、仔豚の丸焼きを作っているところでね。ときどき動かしてやらないといけないんだよ。オペラの改革もいいけれど、仔豚を失敗すると、今夜のお客の食事がなくなるのでね……」。
  (石井宏著/『帝王から音楽マフィアまで』P318〜319より)

 このときのことが余程腹に据えかねたのかどうかは分かりませんが、ワグナーはイタリア・オペラのことを、観客に媚びる“売春婦”と罵っています。
 この罵りもあるいはオペラ改革の一環だったのかもしれませんが、私は美味い仔豚の丸焼きの方に遥かに魅力を感じてしまいます。

 今日は228年前にジョアキーノ・ロッシーニが生まれた日です。
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