「あらためて10年代の優れた音楽を振り返ってみよう」、第3段はThe 1975です。
最近の作品は内容的にも評価されているようだけど、このデビュー・アルバム『The 1975』に関しては、正直、僕にはポップ過ぎて面食らってしまった。インディ・ロックとしては明るすぎるとかそういうレベルではなく、普通にポップ・アイドルのようなキラキラした佇まい。
わかりやすくキャッチーなメロと、自信に満ち溢れたクリア・トーンのボーカル、小気味の良いカッティング中心の、だが深いリバーヴの掛かった明るいギター・サウンド。
ギターのサウンドもそうだが、あるいは歌い上げる系のバラッド“Robbers”からは、どことなく初期U2の「アメリカ音楽に憧れるヨーロッパのバンド」的なピュアさを感じる。
ぶっちゃけ、あのマシュー・ヒーリーのチャラい風貌がすべてを象徴している(笑)。こういうのをエモっていうんでしょうか?僕はマイケミすらまともに聴いていない年寄りなので、不覚にも自分の年齢を感じてしまったりもした。20年前だったら夢中になってたはずのサウンドなのに…もう俺にはThe 1975はダメなのか?どうなんだ?
巷では80年代のマイケル・ジャクソンからの影響も指摘されているようだ。ただどちらかというと黒さを感じさせないポップな黒さで、代表的なのがニュージャックスウィングに挑戦した“Pressure”。
このバランス感覚は、ブラック・ミュージックへの情熱をひた隠しにしたままポップ・スター街道を驀進した、
ワム!のようなグループを思い出す。
というわけで、ひたすら80年代ポップな『The 1975』なんだけど、その一方で、音響の処理なんかは明らかに80年代以降レイヴ的なダンス・ミュージックを取り入れたゼロ年代以降のUKバンド―――たとえば、フレンドリー・ファイアーズのような―――を経由したような現代的なプロダクトで、直接80年代にコミットしているわけではないのが少々複雑なところ。
今思えば、U2のスタジアムを埋め尽くすワールド・ワイドな存在感だったり、ワム!の煌めくようなアイドル性は、現代のポピュラー・ミュージックからはすっかり失われてしまったものだ。僕が思うに、89年生まれの彼らにとって、80年代は「乗り遅れてしまった」という意識が強く、また憧れの対象でもあったのだろう。
だからこそ、本作には“The City”、“Chocolate”、“Sex”のような、老若男女、誰もが沸き上がらずにはいられない完全無欠なシングル・ヒットがこれでもかと詰め込まれ、かつての栄光の時代(と、彼らは認識している)を再現し、その時代を体現したスターに近づこうと、必死に手を伸ばしている。デビュー作とは思えないほど堂々とした野心に満ちた快作だ。
そしてしばらく聴き込んだ今となっては、このあたりの曲にまだ胸が高鳴り、どういうわけか一緒に口ずさんでしまっている。僕はそんな自分に驚き、内心ではかなり喜んでいる。まだまだ若いぞ2601!(笑)
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