出世作となった前作『
サンク・ミー・レイター』は、叙情的なムードは認めつつも、どこかオシャレな曲を歌いながらラップするお兄さんというカジュアルな印象がどうにも抜けきれなかった自分。(そこが魅力のひとつでもあったわけだが)
だが本作『テイク・ケア』では、そこに最先端ブラック・ミュージックとしての矜持が加わり、シリアスな重さ、メロウな内省、そしてソフィスティケートされたプロダクションによって、じっくりと腰を据えて聴かずにはいられない高度なアーバン・ミュージックが展開されている。
とにかく長いアルバムなんだけど、要所要所で豪華客演陣による驚くべきハイ・センスな名曲が突如として飛び出してくるため、まったくダレることはない。
前半の(個人的)ハイライトとしては、当時それほど有名じゃなかったザ・ウィークエンドが瑞々しい歌声を聴かせる“Crew Love”、まだ付き合う前だったリアーナ(笑)との初々しいデュエット“Take Care”で、ポップなドレイクの真骨頂を見せつける。
その後も、自身を恐れ多くも現代のマーヴィン・ゲイになぞらえた、その名も“Marvins Room”からの、ケンドリック・ラマーが客演したことで普通にラップとして別格な存在感を放つ“Buried Alive Interlude”あたりが聴きどころ。
さらにビートがアグレッシヴになった数曲を挟んだ後、その余熱が冷めぬままニッキー・ミナージュの高速ラップが良いアクセントになっている“Make Me Proud”へとなだれ込む。
中盤以降は若干退屈になりかけるんだけど、彼のメンターとも言えるリル・ウェインによる気怠くフニャフニャなラップが楽しい“HYFR (Hell Ya Fucking Right)”があったりと、適材適所で抜かりない。
というわけで、良い曲の抜け目のない配置については唸らされるんだけど、ふと気づくとそれらの曲の長所はすべて客演のパワーに拠るものではないか、という仮定がふと頭をよぎる。ドレイク単体の曲は、正直インパクトに欠ける曲が少なくない。
印象としては、ドレイク自身が潤滑油となって様々な歌い手やラッパーの橋渡しをおこなうことで、なんとかベースのクオリティアップを図っているという節が見られなくもない。
もっとも、旬の若手アーティストをフックアップしてコラボする人脈、そのキュレーターとしての才能もドレイクの才能のひとつとして捉えるのなら(現代のブラック・ミュージックのアルバムは複数のアーティストを結集させた総合芸術だ)、本作はドレイクとしての紛れもない傑作であり、まさしくコラボレートのディケードである10年代を象徴するようなアルバムだ。
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