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2020年04月04日08:10

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Hyperspace/Beck

 ファレル・ウィリアムスと全面的にタッグを組んで制作されたベックの新作『ハイパースペース』。

 ファレルからはミニマリズムについて大いに学んだというベック。とは言え、ガットギターとブルースハープ1本で『ワン・フット・イン・ザ・グレイヴ』のようなものを作れるほどもやは彼は幼くはないわけで。自ずとベックが持ち寄る武器は、アナログシンセやらドラムマシンやら、ラップから、つまりはそれ自体が多様な方法論を可能にする楽器ばかりに限定されてしまう。すなわち彼の手中には、とっ散らかった無限の選択肢があったはずだった。

 サウス風のシンコペートしたビートに、ブルージーにかき鳴らされるスライド・ギターやブルースハープを重ねた“Saw Lihgtning”は、まさしくベックならではの折衷感に溢れた革新的な1曲だが、ミニマルに作られていることで音同士の位相、抜けの良さも際立っている。どこかアンドレ3000の諸作を思わせるような「外し」のテクニックというべきか、アフロなグルーヴもそこに加味されている。
 この曲に限らず、ギターの爪弾きひとつひとつがクリアに胸に迫ってくるのはミニマルな録音ならでは。(本当にこのアルバムはギターの音が良い)

 ただアッパーな曲はこれくらいで、アルバム全体はほぼ内省的でスローな曲調に統一されている。すなわちベックのSSW的な保守的な側面がフィーチャーされるのだが、これらの多くは10年代以降のヒップホップ/R&Bを通過したソングライティングで作られているので、まったく古臭さは感じない。
 むしろアートワークにも表現されている通り、どちらかというと80年代のレトロフューチャーに対するリファレンスも強く、最先端のものから、ものすごく古い伝統的なものまで、ひとつの作品内での時代の越境性という意味ではベック史上でもトップではないだろうか。

 何気にソングライティングのレベルとしても出色の出来で、ここ最近快進撃を繰り出しているベック作品でもこれは会心の一撃はないだろうか。(このちょっぴり薄暗くてダークで疲れたような作風が、今の自分のバイオリズムとうまく合致したのかもしれない)

 僕は本作を聴いているとき、薄明かりの山中をトヨタ・セリカ(80年代はモダンだった)車のライトだけで闇雲に進んでいる映像をイメージする。
 未知なる光景に対する畏れと、そこに立ち向かう勇敢さ。もう若くはない登場人物を自分に重ね合わせながら、謙虚さと、かつての穢れと、そこに対する耽美な恍惚。穏やかなサイケデリアを道連れに。

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