たとえば、硬派でゴリゴリなブラック・ミュージックを志していたジェームズ・ブラウンに比べて、アース・ウィンド・アンド・ファイアー(以下、EW&F)はどことなくチャラチャラした軟派なイメージを抱いていた。あるいは“セプテンバー”のキャッチーなイメージが強すぎたのかもしれない。
ところがこの度、EW&Fの代表作『暗黒への挑戦』(酷い邦題だ)をはじめて聴いてぶっ飛ばされました、という話。
“Africano”なんて、キレキレのジャズ・ファンクじゃないか。クラビネット(?)のガリガリした音が
一時期のスティーヴィー・ワンダーみたいでかっこいい。
“シャイニング・スター”、“ハッピー・フィーリングなんて(タイトル通り)、EW&Fらしいカラッと明るい陽性のファンク・グルーヴを獲得している。しかもこれだけ良いループを生み出しながら、あくまで3分間程度のポップスとして収まっており、数多のファンク勢みたく長ったらしくクドくないのも良い。逆に言えば、もっと聴いて酩酊したい!というガチな需要には応えてないわけで、この辺は取捨選択か。
そして、こうしたアップリフティングなファンクとは対照的に、タイトル・トラック“暗黒への挑戦”のようなフィリー・ソウルを思わせる甘いバラッドも要所要所で存在感を発揮している。とろけるように柔らかいキーボートとブラス・セクションとが絡み合った“Reasons”における多幸感。ベックが『ミッドナイト・バルチャーズ』のころに傾倒していたような、フィリップ・ベイリーによる甘いファルセットが曲の柔和な印象を決定付けている。
それでいて、この人たちは出身がジャズなだけあって楽曲を支えるリズム・セクションが意外なほどしっかりしているので、ただ甘ったるいだけには終わってない。メロディも異常にキャッチーで、ここぞというところの「ツボ」をしっかり抑えている。このあたり、すべてを指揮するモーリス・ホワイトの采配か。
というわけで、強靭なジャズ・ファンクから、スウィートなソウルまで。まさしく硬軟織り交ぜながらの至福の38分。僕は多いに楽しめました。ちなみに、今聴いている
フェラ・クティはアルバム1枚ぶっ通しで聴いているとぶっちゃけ疲れてしまうことがあるので、その点、本作は同じファンクでも熱くなり過ぎず、ポップ・ミュージックとして気軽に楽しめる余地が残されている。
なによりもこのバランス感覚に唸らされた。そういう意味ではブラック・ミュージックの入門編みたいな1作と言っていいと思う。
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