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2019年09月24日12:32

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Now & Then/The Carpenters

 「今と、あのとき」と題されたカーペンターズの73年作は、まさに現代的なポップスと過去のオールディーズのカバーとが織り交ざった、初のセルフ・プロデュース作品。

 当初はセサミストリートの挿入歌として発表された“シング”で幕を開ける本作。楽し気なカントリー調の“ジャンバラヤ”を経た後、これまた彼らのノスタルジックなイメージを体現するような一世一代の名曲“イエスタデイ・ワンス・モア”を起点に、後半は過去のオールディーズがメドレー形式で演奏される。ラジオDJのような曲紹介が繋ぎに挿入されるため、さしずめラジオを次々とチャネリングしながら聴くドライブ・ミュージックのような趣になっている。
 従来通り、小奇麗に整えられた品のあるカーペンターズ・サウンドなのは変わりないが、セルフ・プロデュースの甲斐もあってか、これらのメドレーでは細かいSEまで趣向に凝らされており、実に遊び心に溢れた楽しいアレンジになっている。

 ただし、この開き直ったようなカバー・バンド然としたメドレー攻勢は、硬派なアーティスト思考のリスナーにとっては複雑に受け止められていたに違いない。穿った見方をするのならば、当時隆盛していたアーティ寄りなプログレ・バンドの、ガチガチに造りこまれたコンセプト・アルバムに対して、「音楽って本当はもっとカジュアルで、庶民が楽しめる娯楽のひとつに過ぎないんじゃないの?」という、いかにもカーペンターズらしいアンサーのようにも受け取れる。

 ただ彼らは、音楽の中からプログレ的な神秘的なオーラをはぎ取って漂白してしまう代わりに、アルバムに入りきらないくらい大量のノスタルジーを注入した。そう、“アイ・キャント・メイク・ミュージック”(彼らにとっては意味深なタイトルだ)のハーモニカのサウンドが象徴するように、彼らのサウンドは「今と、あのとき」も、なぜか強烈にノスタルジーを感じさせる。
 もともと“イエスタデイ〜”自体、昔ラジオで聴いていたオールディーズを懐かしむという内容の歌だったので、自分たちが古臭いオールディーズと呼ばれるような時代が来たとしても、この唯一の自作曲だけは、過去に思いを馳せ、懐かしく歌い継がれるような普遍的な名曲なってほしい、という彼らなりの願いがあってこそだろう。

 そんな願いが功を奏してか、僕らは73年に作られた“イエスタデイ・ワンス・モア”を聴くとき、
そして不思議なことに、それよりさらに10年前に作られたはずの“この世の果てまで”のカバーを聴くときですら、等しく儚げな望郷感を持ってそれを受け入れることができる。
 仮にカバーであっても、カーペンターズというアレンジのフィルターを通したとき、時間の流れが凍結して印象が固定化する。どんな曲でもカーペンターズ流のノスタルジアが前面に溢れ出してくる。この現象を「普遍性」と言わずしてなんと言おうか。
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