6年の歳月を経てついに完成されたヴァンパイア・ウィークエンドの新作『ファーザー・オブ・ザ・ブライド』は、風通しが良く、開放感のあるフル・ボリュームな一作に仕上がっていた。
前作『
モダン・ヴァンパイアズ・オブ・ザ・シティ』ではオーセンティックな歌モノに振り切ったことで、よりメジャー規模での成功を勝ち得た傑作だったが、そのオーセンティック志向をより発展させ、同作の特徴だったダークでモノクロな質感もあえて後退化させている。
何曲かでゲスト参加しているダニエル・ハイムの良い意味でも悪い意味でも「癖のない」清涼感のあるボーカルは、いかにも彼らのような高学歴インテリ・バンドが好きそうなヤッピー的ナチュラルさ(笑)を体現していて、彼女のムードはアルバム全体のテイストとも通底しているように思える。
フロントマンのエズラ・クーニグとソングライティング・チームを組んでいたロスタム・バトマングリが脱退したことでバンドの存続が危ぶまれたはずの彼らだったが、そんな困難など始めからなかったかのように涼しげで、肩肘張っていなくて、自然体な表情。普段インディ・バンドしか聴かないような層からは「ただの陽気で明るいポップスじゃん」とみくびられてもおかしくない、広範囲に開けたオープンな音楽になっている。
こうした方向性の変化については、短いようで長い6年間の間に世界のポピュラー・ミュージックの覇者が、彼らが標榜していたようなインディ・ロック的なものからラップを中心としたブラック・ミュージックへと様変わりしてしまったことも遠からず無関係ではないはずだ。
というのも、本作は生のバンドでしか演奏できない音楽に、これでもかとこだわっている様が見受けられるから。それこそループやサンプリングでは生まれない生演奏による人肌のフィーリング、土着的で生っぽいグルーヴを捉えることに注力した作品という見方ができる。
ただし、そのようなイメージから連想するような、ザ・バンドのようなルーツ志向のおおらかなサウンドにはなっていなく、ディティールへの執着も凄まじい。たとえば、わざわざバック・コーラスにまでオートチューンをかけて微妙なニュアンスの違いを演出したり、ドラムスの音色は曲毎に異なった音色で録音されていたりする。加工しまくり。
このあたり、インディ魂がまだ感じられる所以だが…一見してこだわっているようには感じさせないのが本作の魅力のひとつかもしれない。
ところで、それまでキレキレでアーティーな音楽をやっていた人が急にルーツ志向のおおらかな生演奏に回帰する、という流れが、僕はやはりトーキング・ヘッズのキャリアを思い出さずにはいられない。『
リトル・クリーチャーズ』とか、あのあたりの。
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