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2019年08月01日12:34

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Tranquility Base Hotel & Casino/Arctic Monkeys

 デビュー当時から遡ると、微妙に変化してきたアークティック・モンキーズのサウンドだけれど、あくまで「ギター・ロック」の範疇に括られるサウンドだったことに異論の余地を挟む者はいないはず。だがここにきて、従来のギター・リフ発端の手法をやめ、アレックス・ターナーのピアノによってほとんどの曲が作曲されたことにより、「脱ロック」と言っても過言ではない一大変革をもたらした『トランクイリティ・ベース・ホテル・アンド・カジノ』。

 具体的に言うと、50〜70年代前後のオールディーズ・ポップを参照元としたラスト・シャドウ・パペッツの音楽をさらにジャンルの幅を拡げて進化させたもの。
 ベースラインはたとえるならセルジュ・ゲンスブールが70年代の一連のコンセプト・アルバムで引用したレアグルーヴのようなセクシーさを称えている。ポエトリー・リーディング調に変化したアレックスの歌唱といい、全体的にセルジュ度は高め。
 だが、それとは対照的にどこかおもちゃ箱的な印象を残すティンパニーなどのパーカッションの音色は、『ペット・サウンズ』以降にブライアン・ウィルソンが追及した箱庭ポップスを連想することもできる。

 そしてアルバム一枚を通して、次々と景色が移り変わり、表情を変えていく様はまるで映画音楽のサントラのようだ。
 とりわけ音質に対するこだわりは強く、アレックス曰く「埃っぽい音質」で録られたというそのサウンドは、音楽性の懐古趣味も相まってどこかノスタルジーを誘う。というか、アレックスの現在の風貌、まるで往年のアメリカの歌手のような佇まいからも分かる通り、ものすごくダンディになっている(笑)

 でも今思うと、アレックス・ターナーという人はアークティック・モンキーズの音楽に対して、常に「大人っぽい音楽」であろうとして、それをずっと目指してきたバンドなんだという言い方もできると思う。その時々の年齢によって「大人っぽさ」の定義は変わり、あるときはストーナー・ロックのざらついたギターの音像を追及したりもするし(『ハムバグ』)、ブラック・ミュージックのアーバンなコーラス・ワークを身にまとったりもするんだけれど…(『AM』)。今回はこの感じがアレックス少年が思う「大人っぽい音楽」なのだろう。

というわけで、恒例になっている「例え」で〆させていただきます(笑)。

 前作『AM』が、「会社帰りにクラブ通いをはじめたが最後、そこでハッスルしてしまった懲りない男の夜遊び解禁レコード」だとしたら、
本作は、「ディーン・マーティンやセルジュ・ゲンスブールみたいな脂っこいオヤジ歌手のエロスに憧れ、急にダンディズムに目覚めたレコード」。
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