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2019年05月30日21:21

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Merrie Land/The Good, the Bad & the Queen

 デーモンが本来持っていたレゲエやダブの趣味を開花させ、「マルチ・カルチュラルな移民都市としてのロンドン」を標榜した、バンドと同名のデビュー作『ザ・グッド、ザ・バッド・アンド・ザ・クイーン』。

 今思えば、あのころはまだ無邪気な時代だったと言えるかもしれない。ブレグジットを経て次第にヨーロッパから孤立していく現在の英国。それに伴って、階級、人種、イデオロギーによって対立が深まっていく世界を憂い、デーモンは必然に迫られたかのように、そう、ネガティヴな動機に突き動かされてこのブリティッシュ・バンドを再起動させた。
 この不気味なアートワークにも示されているように、本作『メリー・ランド』は、かつて栄華を極めた我が国をノスタルジックに憂い、懐かしみ、愛しみ、そして同時に憎み、そしてそんな無邪気な時代は二度と戻らないと確信しているからこその底なしの喪失感と共に語られる。

 ただし、レトロなマーチング・バンド風の“Gun to the Head”に象徴されるように、表面的には楽しげで賑やかしいサウンドになっているのがおもしろいところ。むしろ1作目よりも明るく、幾分か肩の力の抜けたシンプルなブリティッシュ・トラッドを基調とし、絶望感というよりは淡いノスタルジアを感じさせるオーガニックな質感を伴ったバンド演奏によるアルバムに仕上がった。

 1作目はリズム隊の中でもポール・シムノンの非西欧的なベースプレイにスポットが当てられた作品だったが、本作の主役は間違いなくトニー・アレン。同じく彼をフィーチャーしたロケット・ジュース&ザ・ムーンのレコーディングに手応えを感じたのか、引き続き彼のドラムスを隅から隅までクリアに堪能できるアルバムになっている。
 プロデューサーもデンジャー・マウスから老練のトニー・ヴィスコンティにバトン・タッチ。これみよがしなSEは無し、各人の演奏にマイクがグッと寄った親密な距離感による録音で、おまけにデーモン自身のボーカルも珍しく丸裸にされている(笑)。

 後半は “Ribbons”や“The Poison Tree”のようなスウィートで夢心地なバラッドの小品が挟み込まれることによって、本作のノスタルジックな「過去」への情景がより色濃く浮き出てくる。
 ゴリラズ諸作における「現在」を直視した、コンテンポラリーなブラック・ミュージックを基本としたダークな曲調とは一線を画す、ビタースウィートな過去の記憶、今や失われた優しいメロディ…。
 決定的に損なわれてしまったものだからこそ、そのサウンドはより甘美に響く。これこそが、現代に生きる英国人のメランコリックな「気分」そのものなのだろう。

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