ジョンが仙人のごとく崇高の極みに達していたころ、一方のポールはと言うと、長らく不遇の地位に甘んじていた。
なまじ職人気質な音楽家だったため、それまで培ってきた手法をむざむざ捨て去ることができなかったのか、商業的な成功を収めても評論家からは酷評されたり、あるいはその逆だったりで、なかなかビートルズの亡霊を拭い去ることができずにいた。
そんなとき、ウィングスという新しいバンドの活力に後押しされるかたちで、久々にポールがポールらしさと向き合うきっかけとなった名曲“マイ・ラヴ”。
タイトルからして、いかにもジョンの“
ラヴ”に対するあてつけのようだ。ジョンがヨーコとの関係を通じて、鋭く本質を射抜く言葉とメロディを手に入れたのに対し、ポールは当時の愛妻リンダに向けてあくまでパーソナルな
ラブ・ソングを書くことで原点に立ち返った。「オレはこういう甘ったるいのしか書けないんだよ。悪かったね」と言わんばかりの開き直り。
そう、この曲はとにかく甘い。反吐が出るくらいに甘い。1時間前に食べたキャンディがまだ口の中に残ってるような気がするほど甘い。(変な例えだ)
ストリングスなどのオーケストレーションをベッタベタに重ねちゃって、シンプルの極みだったジョンの作風とは好対照。
しかし、それこそがポールである。
街角のスピーカーから流れだした途端、瞬時に「みんなの歌」になってしまう。誰もがそのグッド・メロディに足を止めずにはいられない。
事実、この曲は“イエスタデイ”や“ヘイ・ジュード”など彼の代表曲に負けず劣らず、今なお世界中でカバーされまくっている。一見して演奏しやすそうなジョンの曲は、あまりカバーされた実績がない。この事実は、両者の作家性の違いを明確に表してるようだ。
この後、満を持して英国を代表するメロディ・メーカーによる快進撃が始まる。
ドラッグ逮捕劇なんてのもあったけど、それはこの際言わないでおこう…。
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