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2021年01月21日17:32

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走れディオニス王  〜あの名作 太宰治「走れメロス」の続編〜

メロスは走った。
メロスは友情の為に走り抜いた。
セリヌンティウス友情の為に待ち続けた。
ディオニス王は二人の友情に感動をし
「おまえらの望みは叶かなったぞ。おまえらは、わしの心に勝ったのだ。信実とは、決して空虚な妄想ではなかった。どうか、わしをも仲間に入れてくれまいか。どうか、わしの願いを聞き入れて、おまえらの仲間の一人にしてほしい。」
と共に涙した。


その夜。
ディオニス王とメロスとセリヌンティウスは三人で杯を交わした。
「メロスよ。まさかホントに帰ってくるとは思わなかったぞ。」
ディオニス王は未だ感動が収まらぬ思いで、赤酒を飲んだ。
「メロスが帰ってくることは私には最初から分かっておりました。」
セリヌンティウスはその友情は永遠であるとばかりに、メロスの瞳に杯を傾け、赤酒を飲んだ。
「はははは。それにしてもセリヌンティウスよ。お前の一発は効いたぞ。」
メロスは、セリヌンティウスに殴られた頬を友情の熱さのように撫でながら、赤酒を飲んだ。

三人は大いに語り。大いに飲んだ。

「ところでメロスよ。おまえの妹夫婦の結婚に、わしからもなにか祝いの品を贈りたいのだ。」
「ディオニス王よ。もったいないお言葉でございます。もともとが貧しい我が家族であります。お祝いの品などいりません。お気持ちだけありがたく頂戴いたします。」
「メロスよ。わしはわしの疑心暗鬼によって、愛する妻も子も、妹もその家族をも殺してしまった。その償いと言ってはなんだが、おまえの妹夫婦になにか贈らせてくれてはもらえぬか?」
「ディオニス王よ。それならば、妹夫婦の家まで私の無事を知らせてはいただけませぬか。二人もたいそう私の安否を心配していることと思います。」
「おお。メロスよ。それならば、わしに三日の時間をくれぬか。おまえと同じくわしがおまえの村まで走り。そして帰ってこよう。」
「おお。ディオニス王よ。我が村は想像以上の遠く、道のりも険しい。三日では難しいかと。。。」
「なにを言うメロスよ。お前は三日で帰ってきたではないか。俺にもお前たちの友としてふさわしい男であるという証明をさせてくれ。」
「おお。ディオニス王よ。もしも三日の内にあなた様が戻らぬ時は。。。」
「おお。メロスよ。三日の内にわしが戻らぬならば。この国はおまえに与えよう。その時はおまえがこの国の主となれ。そしてセリヌンティウスよ。メロスを助け二人でこの国を守るのだ。」
「きっとご無事にお戻りください。我々はディオニス王を助け。三人でこの国とこの国の民の幸福を守りましょう。」

「我ら三人の友情の証に!」三人は杯を天高く掲げ赤酒を飲みほした。


二人が飲みつぶれると、早速にディオニス王は一人、城から抜け出した。
メロスの村に向かって走り出した。
ディオニス王は走った。
命をかけて走りぬいたメロスに恥ずかしくないよう、我ら三人の友情に恥ずかしくないよう走った。
夜の山道の木々が殺してしまった妻に見えた。
獣の鳴き声が殺してしまった子のそれに聞こえた。
自然の呻きが殺してしまった一人一人の叫びに思えた。
疑心暗鬼によって殺してしまった命たちへの罰を、今、疑心暗鬼によって受けている。
ディオニス王は走った。
恐怖と闘いながら走った。
足の痛みに耐えて走った。
殺してしまった者たちの痛みに比べたら。。。
ディオニス王は走った。
川を泳ぎ。濁流に流された。それでも走った。
やがて日が昇り、灼熱の暑さがディオニス王の首を焼いた。それでも走った。

「愛してたのだ。。。」

ディオニス王はつぶやきながら走った。
許せ妻よ。
許せ子よ。
許せ妹よ。
許せ。許せ。許せ。

「愛し方が分らないのだ。。。」

許せ。許せ。許せ。
ディオニス王にできる事は走る事だけだった。


二人が飲みつぶれて一睡もせず十里の路を急ぎに急いで、村へ到着したのは、もう日が暮れる頃であった。
村人たちは畑仕事を終え家路に返る頃であった。
精も根も尽きるたディオニス王ではあったが。
休みもせず、メロスの妹夫婦の家を探した。
村の男に「メロスの妹夫婦の家はどこか?」と訪ねた。
あまりに汚れ傷だらけのディオニス王を王とも思えず、臭い者を見るように
「メロスの妹?はははは。わざわざメロスの妹に会いに遠くから来たのかい?。あんたも好きだね〜。」
村の男はなぜか嘲笑った。
ディオニス王は「なにを!わしを誰だと思っている!」と怒鳴りそうになったが、ぐっと堪えた。
「わしはメロスの友だ。メロスの妹夫婦の家はどこか?」
「メロスの友?はははは。メロスの友がメロスの妹に会いにくるのか?。こりゃ傑作だ。。。」
ディオニス王はなぜ嘲笑らわれているのか分らず、こみ上げる怒りに我慢もできず。
しかし、ここは我ら三人の友情の為だ。とぐっと堪えた。
「たのむ。メロスの妹の家を教えてくれ」
今度は、村の男は呆れたような顔になり、黙って指を差した。
ディオニス王は村の男が指を差す小屋へ向かった。

「メロスの妹はいるか?」ディオニス王は小屋の戸を開けると
中からけだるそうな女が出てきた。
乱れた髪に肩も肌けたその女は、確かに目元はメロスに似ているが、想像していたメロスの妹と違う空気を纏っていた。
「おっ。おまえがメロスの妹か。」
「そうだよ。あんたは?」
「わっわしはメロスの友人だ。お前と、お前の旦那にメロスから伝言を頼まれている。」
「旦那?あ〜ぁ。あの男の事か。。。あいつは旦那なんかじゃないよ。」
「ど、どどう言う事だ?メロスは先日、この村に走りかえって妹であるお前と旦那の結婚を見届けたと。。。」
「結婚?あ〜ぁ。。。あれは、なんだかメロス兄さんが急に帰ってきたかと思えば、大慌てで、やれ結婚だ。やれ祝宴だ。と盛り上

がっているから。止めるのも悪いと思って乗ってあげたまでよ。」
「は?どどどう言う事だ?」
「どう言う事って、私は結婚なんてしないよ。こうしていろんな男と交わることが私の喜びなんだよ。」
「へっ?」
「って。あんたも、そのつもりで来たんだろ?金はあるのかい?私はそんなに安い女じゃないよ。」
「へっ?」
ディオニス王はなにがなんだか理解できず。
なぜか気がつくとディオニス王はメロスの妹と身体を重ねていた。

ディオニス王は、こと終えてもなにがなんだか理解できず。
「おじさん。もう時間だよ。終わったらさっさと帰りなよ。」というメロスの妹の言葉に追い立てられた。
「妹よ。メロスからの伝言だが。。。」
「おじさん。もう終わり。早く帰りな。次の客が待ってるんだよ。」

ディオニス王は、とぼとぼと山道を引き返した。
ディオニス王は、頭の整理ができず。
身体だけがほてり。走る気力が湧かず。
メロスになんと話せばいいのか。
それだけが頭の中をぐるぐると回り。
そのくせ足は前に進まない。

メロスの愛する妹は。結婚などしていなかった。
メロスの愛する妹は。面倒くさい兄の為に結婚をしたふりをしていただけなのだ。
メロスの愛する妹は。自由奔放な売春婦だった。
メロスの愛する妹を。事もあろうにわしは抱いてしまった。。。
想像もしていなかった事態とはいえ。
なりゆきとはいえ。
わしの愛する友であるメロスの愛する妹を。
わしは抱いてしまった。

わしはメロスになんと話せばいいのだろう。
なににたいしても正直であるメロスには、やはり正直に話すべきなのだろうか。
否。メロスの知らない妹のホントの姿をメロスに話すことは罪なのだろうか。
まして私とメロスに妹が関係をもったことを。。。
友情とはなにか。
信頼とはなにか。
メロスよセリヌンティウスよ。
もしお主らがわしの立場であればどうするのか。
わしには分らぬ。
友情が分らぬ。
信頼が分らぬ。
メロスよセリヌンティウスよ。
それでもわしを友と呼んでくれるか。

ディオニス王はトボトボと国へ戻った。
その迷いの中。
ついに友情の答えは見つけられず。
ついには3日の夜を過ぎた。
ディオニス王は「これでいい。」と言い聞かせた。
メロスが国王となれば、メロスは国には帰れなくなる。
そうすれば妹のホントも知れずにすむ。

5日目の朝。ディオニス王は城に戻った。
そこには王となったメロスが玉座に座っていた。
その横にセリヌンティウスが立っていた。
「ディオニスよ。無事だったか。だが、もう遅い。おまえは山で命を落としたと国中は噂され。民衆を落ち着かせるために。昨日。

メロスが王となった。式典は私が滞りなく行った。」
セリヌンティウスは少し憐れみとこれで同等の友になれたなという表情でディオニスに言った。
そうだ。もうわしは王ではない。
「ディオニス王」ではなく。ただのディオニスなのだ。友なのだ。

「無事でなによりだ。国はわしが納める。それもこれも約束通りだ。悪く思うな。」
メロス王の言葉にディオニスは頭を垂れた。
「ディオニスよ。それで妹夫婦はどうだった?」
メロス王の言葉にディオニスは力なく頭をもたげ。
「メロス王よ。妹さまは確かにお元気でした。妹さまは確かに妹さまらしく幸せそうでした。」
「ディオニスよ。そうか御苦労であった。安心したぞ。」

「では。今宵はディオニスの無事な帰国を祝って三人で飲もうではないか。」
「メロス王よ。お待ちください。私は帰り路でいろいろ考えました。私が国にいればメロス王の統治の邪魔になります。私は国を出ようと思います。我ら永遠の友情の為にも。」
「ディオニスよ。何を言う、おまえはセリヌンティウスと共にいつもワシの側にいて、正直な助言をしてもらいたいのだ。」
「メロス王よ。今となっては私には。正直な助言などできないのです。我ら永遠の友情の為にも。」
「ディオニスよ。そんなさみしい事を言うな。正直を貫いて走りに走った事で結ばれたのが、我らの友情ではないか。そしてお前も時こそ過ぎたが、こうして帰ってきたではないか。」
「メロス王よ。もう何も言わず私を御放しください。」
「ディオニスよ。なぜそこまで。。。解せぬ。。。」
「メロス王よ。最後にお願いがございます。」
「ディオニスよ。なんだ?なんなりと申せ。」

「メロス王よ。私はあなた様から正直な心を教えていただきました。しかし私には正直が分からないのです。」
「メロス王よ。私はあなた様から友情を教えていただきました。しかし私には友情が分からないのです。」
「メロス王よ。私はあなた様との友情に報いたい。でもどうすることが友情なのか私には友情からないのです。」
「メロス王よ。否、メロスよ。最後の願いです。」

ディオニスは立ち上がりかつてのディオニス王であったように胸を張り言った。
「メロスよ。私を殴れ。力いっぱいに頬を殴れ。私は、途中で一度、悪い夢を見た。君がもし私を殴ってくれなかったら、私は君と友情の証である抱擁も、お別れの抱擁さえする資格が無いのだ。殴れ。」
メロス王は、ディオニスの言いたいことはさっぱり分からない。
しかしメロスが走った時のセリヌンティウスとのその時の感情と同じ感情を、今、ディオニスが抱いているのだろうと思い。
そのディオニスの思いを無にしてはいけないと。
メロス王は、実のところディオニスの思いのなにも察してはいないのだが、すべてを察している様子で大きくうなづき、
音高くディオニスの右頬を殴った。
そして
「ディオニス。私を殴れ。同じくらい音高く私の頬を殴れ。」
メロス王はなぜこういう流れになるのかよくわからないが、それが友情ってやつであろうと。
メロスが走った時のセリヌンティウスとのその時と同じように、頬を殴り返すよう叫んだ。
ディオニスはメロスの頬を力いっぱい殴った。
「ありがとう、友よ。」二人同時に言い、ひしと抱き合い、それから嬉し泣きにおいおい声を放って泣いた。


最後に
ディオニスはメロスの耳元に
「おまえの妹はよかったぞ。」
とささやくと。
城を出た行った。

友情とはなにか。
ディオニスは夜の街を走り去った。
ディオニスの行く先は誰も知らない。



※いつか「走れセリヌンティウス」も書きます。




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