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2020年01月22日06:21

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石原莞爾が考える国防問題

石原大尉は大正九年(一九二〇年)四月の定期異動で、教育総監部から漢口の中志那派遣隊司令部付に転出します。陸大出の、いわゆるエリート将校の志望はドイツ留学でありましたが、石原莞爾の念願は中国大陸であったから、この転出命令を手放しで喜びました。

石原莞爾はこの中支那派遣隊で板垣征四郎少佐とともに特務機関の業務につき、中支の政情、民情、軍事情報の収集、兵要地誌の調査に当たることとなりました。板垣征四郎少佐は岩手県出身、石原大尉よりは五期先輩の十六期、支那通であった。東北人特有のねばり強さ、実行力の所有者です。

二人は意気投合し、のちに満州事変のときコンビを組みますが、その機縁は、このときにはじまったといえます。石原大尉がそれまでに研究した結論によると、日本の国防は東亜民族が手を握ることであり、それにはまず日支両民族の協調が肝要、というものでした。

その手初めとして、中国大陸の現状を視察できるわけで、ドイツ留学とは比較にならぬほどの意義をもっています。中支那派遣隊勤務は一年五ヵ月という短いものでありましたが、特務機関員であるため、中支を広く踏破しました。

石原莞爾の観察、推理の能力は一般人の数倍もの鋭さをもっていたから、支那通と称される連中の妄想的な考えとは、おのずから質を異にしています。手すきのときは、官舎で一人静かに重要な国防問題である戦争指導理論に思いをめぐらせていました。

その大綱はつぎの通りです。「戦争の指導は、政治と武力、両者の軽重により、短期決戦と長期持久の二種に分けることができる。武力で政治に優先すればするほど戦争は太く短くなり、武力が絶対な場合は、戦いが迅速果敢で短期間に解決する。これがいわゆる決戦戦争である。それに反し政略つまり政治、外交、経済などの価値が増大して、政略が作戦に優先するようになると、戦争は活気を失い陰性的で、細く長く長期化してくる。」

「それが持久戦争である。日本が日露戦争に当たり、戦争指導計画を深く考慮することなく、モルトケの戦略思想を鵜呑みにして強国ロシアに対し、決戦を求めたが、これはきわめて危険な戦争指導であった。これに勝ったのはまったく天佑で、日本がもしもこの戦争の本質を開戦前につきとめていたら、あるいはあのように戦争に踏みきる勇気が出なかったかも知れない。」

「第一次大戦でロシア帝国が崩壊したことは、日本の陸軍に至大の影響をおよぼした。陸軍は仮想敵国を失い、在来の対露中心の研究に大変化をもたらした。すなわち、軍部は軍事業の研究をおろそかにし、戦争よりも政治に興味を持つようになった。その結果、軍閥の出現となったのである。」

「また ロシアの崩壊とともにアメリカの東亜に対する関心は増大し、日米抗争の重苦しい空気は日に日にはなはだしくなり、結局は東亜問題を解決するためには、対米戦準備が根抵をなすべきであるとの判断の下に、持久戦争の研究がとくに重要となったのである。」

「右の状況判断により、日本の国防方針はナボレオンの対英戦争におけると同様に、一方には大陸で、戦争をもって戦闘力を養い、ソ連の南進を断念せしめ、他方ではアメリカおよび世界に対し、陸によって海を制するという持久態勢をとるため、国防の根拠地を大陸に置かなければ、日本の国防は破壊に陥る。しかるに日本軍部の先輩はじめ政治家も一般国民も、日本は島国であるから、あたかも東洋のイギリスであるという考え方が決定的で、日本の国防方針もまたそれであった」

石原は、その理由をつぎのごとく述べている。「日英両国の国防的地位は非常に違う。英国の利害関係は、ヨーロッパ大陸以外の植民地にあるから、それと英本国の交通路を確保するためには、ヨーロッパ大陸における諸国が絶えず争うごとく、フラン スが強くなればドイツをもって対抗させ、ドイツが強くなければフランスやロシアをも って牽制させる。」

「かくしてヨーロッパ大陸の勢力均衡を維持することが、イギリスの外交方針であった。しかるに日本は、今日重大な利害関係を大陸に持っている。日本と大陸との交通の安全のためには、日本が西太平洋の制海権を把握しなければならないが、ソ連が満州から朝鮮、北支へ侵入するにいたれば、日本の国防は致命的な打撃を受けるから、日本はアメリカの海軍と、ソ連の陸軍を同時に防ぐだけのカを持たねばならない」

石原莞爾のこのような判断力は、もちろん天才的才能によるものでありますが、その理論の根本は、幼年学校時代からの戦史の研究に不断の努力を傾注した結果であると思うのです。

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