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2020年02月20日10:06

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後藤明『ムハンマド時代のアラブ社会』

 後藤明『ムハンマド時代のアラブ社会』(山川出版社、2012年)を読了。ムハンマド時代のアラブ社会は一般に部族社会と見なされているが、数千・数万の部族員が族長に統率されて整然と遊牧生活を送る部族はなかった。日常生活を共にしているのは、数十から数百規模の集団である場合が多く、男たちが遠距離を移動しても女たちや老人は泉や井戸の傍らで生活を送っており、共通の父祖を持たない者が様々な形で入り混じっていた。
 ムハンマド時代のアラブは系譜意識を強く持っており、それに基づく人間集団を形成したが、部族や氏族は排他的な集団と捉えてはならない。しかも、制度化された部族長や氏族長などの長もおらず、市役所・市議会・税務署・警察・裁判所などの組織もなかった。皆が自立した個人として多様な人間関係を設定して生きていた。
 ムハンマド時代のメッカ社会も自立した人々が自由に出入りし、国家がなくてもそれなりの秩序があって発展していた。アラビアの歴史に王国や王という存在がなかったわけではないが、優れた軍事指導者の下に諸々の野心家が集まっただけで、ムハンマドの時代はアラビアに国家らしい組織は何もなかった。ムハンマドが作った国家らしきものも、死後に一日で崩壊したが、神への信仰を本気で受け入れた者が多数派となったメディナ市ではカリフの下にまとまりが保たれ、政権が安定的に組織された。
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