mixiユーザー(id:2099950)

2019年04月21日12:22

91 view

問答無用幻想小説スレイヤーズ えくすとらみっしょん(その3・終)

 しかし、その中にはなんの影響もなく、さらに、ブラックが宙を蹴ってフィールドの外に飛び出し、
「ものには限度があるわボケぇぇぇぇぇ!」
と叫びながら拳で容赦なく顔の部分をぶん殴った。
《ぼぐぉっ!》
 その勢いに飲まれてか、上げなくてもいい声を上げる世界の残滓は殴られた顔を手で押さえて、怒るブラックを見上げた。
「まずは正座!」
《あ、はい》
 言われ、世界の残滓は、そそくさと宙で正座の姿勢になり、膨らんだ身体も前より小さくなっていた。
「甘い顔してたら、まあ何度も何度も何度も何度も……この百三十八億年間、一度たりともおかしいたぁ思わなかったのか!?」
《あ、いや、その……なんにも言わないから、いいのかなあって……》
「良いわけあるかごるぁぁぁ!」
 怒りに任せ、ブラックは世界の残滓の頭を踏みつける。
《い、嫌だったら嫌だって言えば良かっただろ!》
「だーかーらー、こーして拒否っただろうが! そしたら、この有り様だ! こんだけ抵抗して、偶然手に入れたどっかの根っこまで使って、どの口が言うとんじゃ我ぇぇぇ!」
と言いながら、ブラックがガンガンと足で踏みつけるのを目にし、リナたちはフィールドの中で呆気に取られていた。
「な、なんか、凄いな、ブラックさん」
「口調まで変わられて……もしや日本の関西のご出身なのでしょうか?」
「気になるとこそこなの、マシュ。
 まあ、しょーがないんじゃない? あいつはずーっとこの世界を支えてきたんだから、怒る権利は誰にも止められないわ。それに滅ぶか否かの選択も」
 リナの言葉に、立香とマシュは表情を暗くする。
「本当に滅びを選んでしまうのですね」
「そうよ。もうこれ以上、あの子にだけ辛い思いをさせておくわけにはいかないもの」
 ホワイトが寂しげな視線を向ける先では、ブラックが世界の残滓を蹴り飛ばして霧散させているところだった。
「あ、終わった。あとはあれをサンプルとして回収して、この異聞帯から撤収すればいいってことかな?」
「あたしとしては、あんなワケわかんないの、神滅斬で消滅させたいとこだけど、もしかしたら今後何かの役に立つかもしれないし、充分注意して取り扱いましょう」
 そう言っているうちに、空想樹の根っこを手にしたブラックがフィールド内に戻った。
「お帰んなさい。気が済んだってところかしらね?」
「ははっ、そうだね。はい、じゃあこれを」
 小さく透明な球体のようなものに納められた空想樹の根っこをブラックは、立香に手渡した。
「しっかし、まあ百三十八億年、でしたっけ? そんな長いことうじうじしてたってのに、ここに来てよく吹っ切れたもんね。うじうじしてたら問答無用でお尻のひとつでも蹴っ飛ばしてあげようとと思ってたのに。なになに? なんか吹っ切れるきっかけでもあったってわけ? もしかして、復活したホワイトが励ましてくれた、とか?」
 物悲しいお別れにしたくないのか、リナは努めて明るく振る舞い、いたずらっぽくブラックに尋ねる。
「それもあるけど、一番のきっかけはこれだよ」
 そう言って、ブラックは懐からボロボロになった一冊の本を取り出した。
 それは文庫本。表紙には金色に光る両手を前に突き出した少女が描かれていた。
「これは、もしかして表紙に描かれているのはリナさん、ですか?」
「題名も、ほら『スレイヤーズ』ってあるよ、リナさん!」
「まさか……あたしが書かれてた本、なの?」
「今生でさ、ボクは、おとなくして気が弱くてね、嫌なことも嫌だって言えない子供だったんだ。
 そんなとき、この本に出会ってね、衝撃だったよ。そこに書かれてる女の子は前向きで破天荒でたくましくてさ。
 バカにされるからって、おどおどビクビク周りを怖がっている必要なんてないんだってボクに教えてくれたんだ。
 それでボクも、少なくとも恥じることなんてしてないんならもっと強く生きていこうって思えたんだよ。
 だから、世界の敵になっても生き延びようって思った。そして、百三十八億年のすべてを思い出したら、『こりゃ意地でも世界滅ぼしたらぁ』って決意したんだ。
 ありがとう、リナさん、こんなボクを変えてくれて」
 今までにない最高の笑顔で例を言うブラックだったが、当のリナは顔をひきつらせ、
「いや……いやいやいやいや。重い! それものすごく重すぎじゃない!? てーことはなに? この世界滅ぶきっかけってあたしなわけ? いやそれちょっと飛躍しすぎとゆーか、影響され過ぎよ! あたしが言うのも変だけど、ライトノベルの主人公の言動で価値観反転するってどんだけ薄っぺらな人生経験……なぁわけないのよね、あんたの場合。あっ、そーか! 今までの積み重ねが重すぎて、反転の度合いもそれに比例したってこと!? いやそれにしてもこれは……」
「で、でもさぁ、リナさん、こうして感謝されてるんだし、別に悪いことしたってわけじゃないって、俺は思うよ」
「そうですよ、リナさん! 書籍に書かれた生きざまだけで人生観を変えて魔王が誕生して、世界崩壊のきっかけになるなんて、誰でもおいそれと出来ることではありません!」
 フォローしようとする立香とフォローで傷口に塩を塗り込めるマシュの言葉に、リナは頭を抱える。
「ぢょぉぉぉぉだんぢゃないわよ! ダメ! 滅ぶな! やり直しを要求するわ! これ以上おかしな二つ名増えてたまるもんですか!」
「あ、でも……」
「ん? なによ、立香!」
「うん、ステータス更新で、リナさんに新しい固有スキル『世界を滅ぼすものA+』ってのが追加されてる」
「なんですってぇぇぇぇぇぇ!」
 『座』の対応の早さに絶叫するリナをよそに、ホワイトとブラックは、宙に浮かぶフィールドを切り離し、三人をシャドウ・ボーダーへと送る。
「ありがとう、リナ」
「ありがとう、リナさん」
「あ、ちょっと! 良い話風に終わらせようとしてんじゃないわよ! まだ帰んないわよ!」
 満ち足りた笑顔で宙に浮かぶホワイトとブラックに食って掛かろうとするリナだったが、立香はやれやれと肩をすくめるとマシュとともにシャドウ・ボーダーに連れていく。
「ちょっと、立香、マシュ! いーやーよ! このままにして堪るもんですか! はーなーせー!」
「はいはい、リナさん、愚痴は帰ってからたっぷり聞き流すからもう帰ろうねー」
「あ、あの、それでは……こんなこと失礼かもしれませんが、その……お達者で、おふたりとも!」
「あ、あんたらぁぁぁぁ、カルデアに召喚されたら覚えてなさいよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
 ペコリと頭を下げるマシュの後ろで、リナは恨みのこもった声をあげながら車に押し込まれた。
 そして、立香とマシュが乗り込むとなにもない宙を走り、異聞帯から去っていくのだった。
 シャドウ・ボーダーの姿が見えなくなるまで見送ると、ブラックは、ホワイトと背中を合わせる。
「さてさて、ここからは消化試合だね。まだ力は残ってる?」
「あったり前じゃない。あたしを誰だと思ってるのよ」
 問われたホワイトは、にかっと笑い、拳を握り締める。
 すると、ふたりの周囲に先ほどブラックが文字通り蹴散らした黒い人型の世界の残滓が数えきれないほど現れた。
「あきらめが悪いわね、まったく」
「しょーがないよ。滅びたくないんだよ、みんな」
「そうね。じゃあ、世界が消えるまでとことん相手してやろうじゃない!」
「うん! 行くよ、司ちゃん!」
「気合い入れなさい、奉!」
 そして、神子と忌子は、最後の戦いに身を投じた。

 ノウム・カルデアの通路をツカツカと足音を立て、早足で歩くリナの姿があった。
「おお、そこな平っべったい娘よ! 聞けば、何やら面白い武勇があるそうではないか。よかろう、この我が聞いてやろうではないか!
「あー、また今度ね、英雄王! ちょっと急ぎの用があんのよ! そのあとだったらもっと面白い話聞かせてあげられると思うわ!」
「ふっ、よかろう。あとで絶対だぞ!」
「おお、リナ=インバース殿! 我輩の新たなジャンルへの挑戦のため、貴殿の話を是非とも伺いたいのですが……」
「ごめんなさい、劇作家。また今度で!」
「ふぅ、仕方ないですな。では、またいずれかの機会に。その時は、我が友、アンデルセンも同席させましょう」
「悪いわね。それじゃ!」
「あ、リナさん。地下図書館に『スレイヤーズ』の長編、短編、派生作品が揃いましたので、よろしければいらしてくださいね」
「あー、ありがとう、紫式部! また今度ー!」
 様々なひとに声をかけられるもリナは歩みを止めずひたすら歩き続け、そして、目的の場所に到着する。
 そこは召喚ルーム。
 今まさに、虹色回転の末、新たな二騎のサーヴァントが召喚された。
「ルーラーのサーヴァント、神代の神子プリマ・マテリアーピュア ホワイトよ。久し振りね、マスター!」
「サーヴァント、アヴェンジャー、神代の忌子プリマ・マテリアーピュア ブラック。また逢えたね、立香くん!」
「来たわねぇぇぇ! 覚悟しなさい、あんたたち!
 インバース・トルネード・クラァァァァァァッシュ!」
 怒りの声とともに飛び蹴りをぶちかますリナ、そして迎え撃つホワイトとブラック。
 カルデアは今日も平和であった。
ー了ー
1 0

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する