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2019年04月21日12:22

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問答無用幻想小説スレイヤーズ えくすとらみっしょん(その2)

「な、なんか話が変な方向になってきたわね。まあ、元が元だから出来ないことはないんでしょうけど……今までやらないで我慢してただけなんだし……ねえ、司、あたしたち、そこに行く必要ってあるの?」
「とんでもない! あるわよ、必要! 絶対に必要なの! 手加減しなくなったたあの子に世界が拮抗出来てるってことがそもそもおかしいんだから!」
「そうか! 司さんの世界はそのひとに拮抗出来るなにかを手に入れて、俺たちにそのなにかを特定して排除するのを助けてほしいってことか!」
「まあ、そんなところ。しかもその原因もすでにわかってるんだから!」
 司はパイプ椅子を倒すほど乱暴に立ち上がった。
「世界を漂白したクリプター! その中の誰でどこの異聞帯かは知らないけど、そいつらが育てた空想樹の欠片が原因なのよ!」
 言い放った司の言葉に、立香、マシュ、ゴルドルフ、そしてリナはしばし沈黙し、
「「「「あいつらかぁぁぁぁぁぁ!」」」」
と頭を抱えた。
 空想樹。それは異聞帯の要となるもの。惑星を初期化し、新たな神話を作り上げる濾過異聞史現象を成立させている要石で、空想の樹なくして現実への侵攻はありえないという。空想樹があれば異聞帯が消滅する事はなく、逆に言えば空想樹を育てなければ世界を維持することはできない。魔術王を騙った魔神王ゲーティアの引き起こした人理焼却事件後、査問会による執拗な尋問を終えたカルデアを異聞帯からの英霊が襲撃。生き残った職員とゴルドルフ新所長、サーヴァントであるダ・ヴィンチちゃんとシャーロック・ホームズ、そして立香とマシュだったが、本来カルデアにてAチームとして人理修復に携わるはずだった七人のマスターがカルデアを裏切ってクリプターを名乗り、七つの誤った歴史ー異聞帯により人理を白紙化したのたった。立香たちカルデアの目的は七つの異聞帯を攻略し、その要たる空想樹を切除することにあった。
 そして、その余波が司たちに及んでいるというのだ。
「ええい! どこだー! どの異聞帯だまったく! マシュ・キリエライト! とりあえず虞美人を呼んでこい!」
「お、落ち着いてください、新所長! 芥さんのとこはこの前解決しましたから恐らく無関係です!」
「すんませんすんませんほんっとーにすんません」
 ゴルドルフは叫び、マシュはそれをなだめ、立香は額をテーブルに擦り付けて謝り、リナはあまりのことで頭痛が起きたのかこめかみを押さえていた。
「OK。あんたがなんでここに来たかよーやくわかったわ。ぶっちゃけ泣き言ばかりであたしたちに関係ないからいつ断ろうかって思ってたけど、めちゃくちゃ関係あんじゃない! てゆーか、さっさと空想樹のこと言いなさいよね、まったく……」
「なによ! 事情を説明しろって言ったのはそっちじゃない!」
「かいつまんで、分かりやすく、簡潔にしてよ! 長いのよ、あんたの説明!」
「んじゃあ、『あんたんとこのクリプターの空想樹の欠片が原因で迷惑してるからなんとかしなさいよ』つったら『はいそーですか』ってすぐに納得したってーわけ!?」
「んなもん納得するわけないじゃない!」
「あー、なんか、ふたりともすっげー似てるね」
「「似てないわよ!」」
 どーでもいー感想を入れる立香に、リナと司は声をハモらせて怒鳴りつけた。


「ここが……司さんの異聞帯……ですか……」
 呆然と呟くマシュの眼前には朽ち果てたビル群が広がっていた。
 あのあと『そーゆーことなら行ってみるか』で話がまとまり、立香たちは司のナビゲートで虚数潜航挺シャドウ・ボーダー駈り、件の異聞帯に侵入したのであった。
「なんだっけこれ?
 たしか日本の昔のアニメで見たことがあるような……」
「時はまさに世紀末ってやつじゃない? ほら、ルーラーのほうのマルタの男版みたいなのが主役の。あたしもアーカイブで自分が出てるって作品を観るついでに観たけど、確かにそれと似てるわねえ」
「あ、その作品、こっちでもあったはずよ。世界的人気になってたんじゃなかったかしら?」
などと話しつつ、砂埃舞う廃墟の街を司を先頭にして歩いていく一行。
 しばらくすると、遠くから打撃音のようなものが立香の耳に届いた。
「なんの音だろう? マシュ、なにか分かるかな?」
「はい、先輩。こちらでも打撃音を確認。それと音のする方向で動体反応を検知しました」
 マシュの新装備である霊基外骨格オルテナウスのゴーグルにシャドウ・ボーダーから送られてきた情報に、立香とリナに緊張が走る。
「だーいじょーぶよ。そんなに身構えないで。
 ほら、あそこよ」
 そんな二人の様子に苦笑しながら司が指差した先に見えたのは、大きく開けた大地に立つ二つの人影とその周りに死屍累々と横たわる大勢の老若男女の姿だった。
「なっ!? ちょっ、司! あれ……まさか全部死んで……?」
「い、いえ、リナさん。生命反応を確認。生きています、あのひとたち……虫の息ですが……」
「それもだけど……打撃音の元ってあのふたりなんじゃ……」
 驚くリナに答えるマシュ、そして立香が注視するふたつの人影が激突した。
 ひとりは、黒髪の少年。年の頃なら十四、五歳だろうか。幼さを残す整った顔立ちで、激しい戦闘の末でか、ボロボロになった衣服を身に纏い、生々しい傷だらけの身体で拳を握って構え、疲労のせいか肩で息をしていた。
 もうひとりは、同じく黒髪の老人。伸ばし放題のボサボサの髪で目元は隠れ、顔には深い皺が刻まれ、背は対峙する少年より低く、経年によるボロボロになった粗末な服を身に纏い、服の隙間から覗く肌には無数の傷跡が刻まれ、しゃんと伸びた背筋で両手を後ろに回し、武の達人を思わせる佇まいを見せていた。
「動いた!」
 立香の言葉通り、老人に向けて大地を蹴った少年は瞬時に肉薄し、渾身の力を込めた蹴りを放った。
 しかし、老人は身を沈ませてかわすと、少年の軸足を地を這うような蹴りで刈り取り、すかさず立ち上がる勢いに乗せてバランスを崩した少年の身体を高く蹴りあげ、宙に浮いた少年の腹に深く手刀を叩き落とした。
「ぐぉふっ」
 少年は低く呻き声を漏らし、大地に叩きつけられ、ピクピクと小刻みに痙攣しながら倒れ伏した。
「ダメだ! 早く助けないと!
 マシュ! リナさん! 行こう!」
 一瞬の出来事に身動きすら忘れたリナが我に返り、立香とマシュに呼び掛けて駆け出した。
 そして、老人に近付くと地面に倒れた少年を庇うように対峙した。
「ほお、あんたら……」
 髪の毛に隠れた片目で三人を見ると、老人はそうかそうかとうなずいた。
「お爺ちゃん……これ全部あんたがやったってんなら、ちょっと洒落にならないわね……」
 凄んでみたものの対峙してあらためて老人に一分の隙もないことを悟り、リナの額に冷や汗が滲む。
「マシュ、盾役を頼む。リナさんの詠唱の時間を稼いでくれ」
「わ、わかりました」
「リナさんは宝具で一気に……」
「まかせといて……行くわよ!」
「行くんじゃないわよ! この慌てん坊!」
 動こうとした三人の背後で司が声を上げた。
 振り返ると、先ほど老人が打ち倒した少年がその身体を異形に変えてリナたちに襲いかかる寸前で、司はそれを金色に輝く拳でぶん殴り、ぶっ飛ばされた異形化した少年の片足を空中で掴んだ老人は、そのまま左右に振り回し、何度も地面にビッタンビッタン叩きつけ、ハンマー投げのようにぐるぐるとぶん回し、最後には遠くの空へと投げ飛ばした。
「ちょっ、その攻撃……まさか!?」
 驚くリナをよそに、老人はふーっと息を吐きながら汗をぬぐい、司に文句を言った。
「いきなり危ないではないか、姉者!」
「手加減したあんたの尻拭いよ。文句より感謝してもらいたいものね」
 そう言って、パンパンっと手を払いながら司は老人の隣に立った。
「え、えーっと、司さん、このお爺ちゃんは、いったい……」
「ん? ああ、ごめんなさい。この子が、藤丸立香、あんたに憑依してた生贄の英霊よ」
「おう、あのときはすまんかったのぉ」
「「「はあっ!?」」」
 司に紹介され、しゅたっと手を上げて挨拶する老人に、三人は驚きの声を上げた。

「この方が……その、生贄の英霊の……伺っていたのとイメージが、その……」
「いんや、お嬢ちゃん、根暗でドM、合っておるぞ」
 からかうように、老人はひょっひょっひょっと笑う。
「あんた、もー少しどころか、もっと若くなかった?」
「おや、姉者から聞いておらならんだか? 世界が自殺に追い込もうとしたでな、必死に生き延びたんじゃよ」
「それは聞いてるけど……お爺ちゃんになってるなんて……」
「いやいや、爺になるまで生き延びての。老体になってからはちょっとのことで死んでしまうからのぉ。世界からの攻撃も楽になったぞ」
「でも、それまでは地獄だったんじゃないのか?」
「聞くな。思い出したくもないでな」
 ぴしゃりと言い放つ老人の言葉に得も言われぬ迫力を感じ、立香は口をつぐんだ。
「でもまあ、驚いたわよ。さっきの、まるで勇者が魔王に立ち向かってるシーンみたいだったもの」
「そ、そうですね。まるで人々を蹂躙した魔王に勇者が敢然と立ち向かっている場面みたいでしたね!」
「おかしなことを言い寄るのぉ。ほっほっほっ」
「そーよぉ。もぉ、なに言ってるのよ、リナ=インバース、マシュ・キリエライト!
 今のが勇者対魔王の最終決戦だったに決まってるじゃない!」
「「「えっ?…………えぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」」」
 とんでもねーことを、あっけらかんと口にする司に、リナたちは再び驚きの声を上げる。
「ど、どっち!? どっちが勇者で魔王だったわけ!?」
「おぉ、空の彼方へ飛んでったほうが勇者でなぁ」
「この子が魔王よ。あれ? 言ってなかったかしら?」
「聞いてません聞いてません! ま、まお、魔王なんですか、このかた!?」
「え? なに? てーことは、俺、魔王に憑依されたってことなのか!?」
「それよりも、勇者が魔王に倒されてどーすんのよ! この世界滅びちゃうじゃな……あっ、そっか滅ぶのよね、この異聞帯」
 リナの言葉に、騒いでいた立香とマシュもハッと気付く。
「そうじゃよ、リナさん。滅ぶんだ、この異聞帯はね」
 優しく諭すように言う老人の姿と声が変わっていく。ボサボサの黒髪はそのままだが顔の皺が消えて肌に張りが戻り、顔立ちはどちらかと言えば愛嬌のあるものに変わり、幾分か背も伸び、年の頃なら十七、八くらいの少年の姿になった。しかし、その身体には無数の傷跡が変わらずに刻まれていた。
「それがあんたのほんとうの姿ってわけ?」
「ん、まあ、魂に寄せた姿って表現のほうが近いかな?
 あらためまして、ボクはこの世界の半分。存在するゆえの業とも云える節制たる神代の忌子、神代の昔、神に代わり忌み嫌われた子供です。リナさん」
「じゃあ、あたしも……この世界の半分。すべてを生み出す力たる神代の神子、神代の昔、神に代わり神となった子供よ」
と言って、ふたりは立香たちに一礼をする。
「力の神子と業の忌子……おお、仮面ライあだっ」
「なに言ってんのよ、まったく。
 それはゴールデンで充分よ」
 余計なこと言おうとした立香の頭をスパンッと叩いたスリッパを懐にしまい、リナは目の前のふたりに向き合った。
「神子と忌子で、さらには魔王、とはね。
 で? 名前はないのかしら? 神子のほうは司って名乗ってたけど、それも本当の名前ってわけじゃないんでしょ?」
「そうね。あたしはすべてを生み出した力という存在。言わばすべてを司る■■■ ■よ」
「ボクは贄として奉られた存在。世界の暴走飽和、そして世界と対消滅するボクからすべてを護る■■■ ■だよ」
「な、なに? 聞こえなかったんだけど……どうしたのよ?」
 怪訝な顔をするリナに、ふたりは顔を見合わせて苦笑する。
「やっぱり、聞こえない……とゆーか、記憶できないのね」
「どーゆーことよ?」
「からかってるわけじゃないんだ、リナさん。姉さんはすべてを生み出す力。なんにでもなれるけど、なにかに名前を固定されてしまったらそれにしかなれない。だから名前が記憶されない。そして、ボクは認識したくない現実。みんな何かを犠牲にしているけど、それに目を向けたくない。だから、それが誰なのか名前は記憶されないんだ」
「名無しの英霊、ってわけね。
 無銘(nameless)じゃなくて無名(no name)か。
 でも、神子とか忌子とか呼ぶのはねえ……そうね、原初の女神が手ずから生み出した力と削ぎ落とされたものだし、どっちも純粋な第一物質(プリマ・マテリア)だから、仮に、神子は『プリマ・マテリアーピュア ホワイト』、忌子は『プリマ・マテリアーピュア ブラック』ってのでどう?」
「あたしがホワイトで」
「ボクがブラックってこと?」
「ピュアホワイトとピュアブラック……ふたりはプリあだだだだだ……」
「そーこーまーで。鬼求阿がもーいるわよ」
「そうです、先輩! 第一、ブラックとホワイトで得意とする攻撃スタイルがあべこべであたたたたた……」
「はい、マシュも余計なこと言わない」
 呆れ顔のリナは、左右の手それぞれのスリッパで立香とマシュの頭をすぺぺぺ叩いた。
「それで、ここに倒れてる人たちは、前のあたしたちと同じ、世界を滅ぼす魔王を倒すためにこちらの世界の抑止力としてバックアップを受けてたってわけね……負けちゃってるけど」
 足元に死屍累々と倒れる人々を見回し、リナは複雑な表情を浮かべる。
「そうよ、リナ=インバース。
 ここにいる人たちすべてがこの子が倒しに来た勇者様ってやつよ。百三十八億歳のお爺ちゃん相手に人海戦術にもほどがあるわよね」
「いやいや、姉さん。ボク、今生だとまだ八十七歳だから」
「それでも充分ジジイよ、まったく」
 忌子の少年ーブラックの見当違いなこだわりに、神子の少女ーホワイトはやれやれと肩をすくめる。
「おお、ショタジジイとロリババアっやつだこれ」
「しかし先輩、見た目が育ちすぎではないでしょうか? 特にショタとは主に十代前半、もしくは声変わり前を指すものだと私の中のなにかが主張しています」
「いやしかしショタは概念という見解もあることだし、あとで黒髭と刑部姫と一緒に検討してみよう」
「ついでにまとめて説教するから逃げんじゃないわよ、ふたりとも」
「「すみませんでした!」」
とリナに怒りのこもった笑顔で告げられ、立香とマシュは平身低頭謝った。
「面白い子たちだねー。緊張のなかにも余裕があるっていうのか、よっぽどたくさんの信頼できる人たちがいるんだね」
とブラックは、どこか寂しげな笑顔を三人に向けた。
「で? ホントに滅びる気なのね、あんたたち」
 リナの言葉に、ホワイトとブラックはこくりとうなずいた。
「元々、あたしが助けを求めたときに終わっていたはずなのよ。たった独りを犠牲にして繁栄した世界なんて」
「ボクにも責任がある。いくら居場所が欲しかったからって、何度も何度も繰り返して、みんなを甘えさせてしまった。その度にボクの魂には罪が形を変えた傷跡が増えていった」
「それは、その身体中の傷跡のことですか!? そんな……ブラックさん、あなたは、いったい何度それを繰り返したのですか……?」
 ブラックの身体中にある無数の傷跡に、マシュは言葉をなくす。
「でもさ、嬉しかったんだ。暗いとこで視てた世界から呼ばれてさ、『助けて』って。それで手を伸ばしちゃったんだ。これで仲間に入れてもらえるって。でも、それで世界が消えることになるなんて思いもしなかったんだ」
「そこをつけ込まれたってわけね。いえ、暴走飽和したことからあんたの存在が必要不可欠なものだということは分かっていたはずだから、最初は本当にあんたの居場所を作ろうとしてたんでしょうね」
「でも、それは難しくて、なかなか出来なくて、だんだんと後回しにされて、忘れ去られていったのか」
「そう、だろうね、立香くん……まったく参ったね。欲張るもんじゃないや」
「いいえ! それは違います!」
 仕方ない、と頭をかくブラックに、突然マシュが声を上げた。
「ブラックさん、あなたは欲張ってなんかいません! 居場所が欲しいなんて、そんなの当たり前のことです! それに、あなたが手を伸ばした理由はそれだけではないはずです! 『助けたい』、そう思ったからこそ、あなたは動いたんです! だから……だからそんな、すべてをあきらめたようなこと言わないでください!」
「マシュ、優しい子ね。ありがとう、この子のために怒ってくれて。ほんっとにそうよね。だから根が暗くてドMだってのよ」
「反省しています、姉さん。それと、ボクからもありがとう、マシュちゃん」
「い、いえ、その……私のほうこそ、感情的になってしまい、すみません」
 ホワイトとブラックに言われ、マシュは慌てたように頭を下げる。
「さて、それじゃそろそろ、かしらね?」
 リナの言葉に、ホワイトとブラックがうなずく。
「姉さん、よろしく」
「ええ。わかったわ」
 ブラックに促されたホワイトは、拳を握った右腕を高く天に掲げる。
「清浄と穢濁よ 源より出でし世界は虚無に至る
 繰り返す創世と破滅 因果の巡る時空の中
 創造、破壊、そして調和 そのすべては力と節制」
 ホワイトが紡ぐたびにその身体から金色の光が溢れ、天に掲げた右腕の拳に集まっていく。
「『清浄と穢濁(ヘブン オア ヘル)』!」
 そして、ホワイトがその言葉とともに金色に輝く拳で地面を殴ると世界が叩き壊された。
「ちょっ……!」
「うわぁっ!」
「きゃぁっ!」
 突然、足元がなくなり宙に投げ出されたリナ、立香、マシュの三人だったが、薄い幕のようなフィールドに包まれた。
「え? これって……ブラック?」
「悪いね。姉さんに壊してもらわないとこの世界に根付いた空想樹の欠片は姿を顕さないんだ。あ、それとキミたちが乗ってきた車? それも無事だから安心してね」
とブラックが指差した先には、宙に浮かぶ虚数潜航挺シャドウ・ボーダーの姿があった。
「なにをするか説明しときなさいよね、まったく!」
「でも、世界を壊すなんてホワイトさんのあの力はなんなんだ?」
「あれは姉さんの、君たちならって言うなら宝具ってやつだね。
 『清浄と穢濁(ヘブン オア ヘル)』。すべてを生み出した力を世界に叩きつけ、その清濁を問うものだよ。世界が正しくあればそれに見合った加護が、間違っていればこの通りってわけ。まあ、そうでなくても姉さんがありったけの力を込めたものだから、それなりの攻撃力はある打撃だね」
「それなりのというと、具体的にはどのくらいなんでしょうか?」
「そうだなあ……宇宙をひとつぶっ飛ばせるくらい、かな?」
「「「げっ!?」」」
 軽く言うブラックの言葉に、三人か絶句する。
「なにしてんのよ。ほら、あれが空想樹の欠片よ」
 ブラックの維持しているフィールドに戻ったホワイトが指差す先には黒い靄のようなものがまとわりついた細い根っこが宙に浮かんでいた。
「あれが……空想樹の欠片、か」
「欠片ってゆーか、根っこ? それも細いし毛細根かしらね?」
「そんなものだけでも世界に影響を与えてしまうんですね。しかし、あのまとわりついたものはいったいなんなのでしょう?」
 不思議がるマシュに応えるかのように、黒い靄のようなものが形を変え、顔のないのっぺりとした人の形となった。
「あれは世界の残滓ね。この子を倒そうとしていた勇者様をバックアップしてたものよ」
 ホワイトが冷めた眼を向けられた世界の残滓から呻くような怨嗟の声が聴こえる。
《なぜだぁ……なぜ裏切る……なぜ世界を救わぬのだぁ……契約を……我らとの契約を果たすのだ……》
「うん。そうだね。ボクはキミたちと契約を交わした。ボクの居場所のある世界を作る代わりに罪の肩代わりをするって」
《そうだぁ……貴様は言ったのだ……みんなが笑顔でいられますように、と……》
「うん。ボクは泣いてばかりだったからね」
《……みんながお腹いっぱい食べられますように、と……》
「うん。ボクはいつもお腹が空いていたからね」
《……みんながあたたかい場所で眠れますように、と……》
「うん。ボクは寒くて眠れなかったからね」
《……みんなが仲良しでありますように、と……》
「うん。ボクは嫌われているからね」
《……みんなには誰かそばにいてくれる人がいますように、と……》
「うん。ボクは独りだからね」
《……みんなが幸せでありますように、と……》
「うん。ボクはみんなが好きだから」
《ならばなぜだぁ! なぜ我らを、世界を見棄てるのだぁ!》
 怨嗟の声が高まり、世界の残滓がその人型を大きく膨らませ、ブラックの維持するフィールドを両手で掴むとまるで駄々をこねる子どものようにガクガクと揺さぶった。
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