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2021年05月24日08:13

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5/22 鏑木清方と鰭崎英朋 近代文学を彩る口絵 朝日智雄コレクション@太田記念美術館

東京都に緊急事態宣言が出ているなか、予定通り開幕しました。嬉しかった。元はと言えば、この企画は昨年2月にコロナによって途中閉幕してしまったのでした。それが、国芳や芳年やらだったらまたも機会があろうけれど、「これまでスポットの当たってこなかった絵師や作品」の展示です、だからこそ「どうしても多くの人にご覧いただきたいという学芸員の思いから、展示スケジュールを調整し、再び同じ内容で開催することにいたしました。」という。太田記念美術館、あっぱれ!
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早速出かけてきました。とは言え、場所は原宿。土曜日だし、若者で賑わっている街、感染が怖い。午前中の方がまだ人では少ないだろうと、開館と同時に入って昼前には原宿を脱出、帰宅してから昼食、ということにしました。開館5分前着。待っている人は我々含め5組。皆距離を取り、沈黙。今日は本当に美術好きが集まっているなぁ、という印象。
畳敷きの展示スペースと2階の平置き展示ケースには感染予防で展示なし。感染予防のアナウンスもありました。後から入場する人も少なく、全く密にはなりませんでした。

さて、今年は鏑木清方に縁があるようです。「小村雪岱展」、「あやしい絵展」、「渡辺省亭展」、「コレクター福富太郎の絵展」、皆つながります。
本展タイトルは「鏑木清方と鰭崎英朋」とあるけれど、その実、これまで忘れ去られていた「木版口絵」の魅力を代表的な6人の画家の111点の作品を通して紹介するという、ちょっとマニアックでディープな世界でした。いろいろ学べて面白かったです。

「木版口絵」とは、明治中期から大正初期にかけて、小説単行本や文芸雑誌に挿入された一枚摺の美しい木版画の挿絵のことで、いまでいうグラビアみたいなもの。日比谷図書文化館の「小村雪岱展」でも多数展示がありました。

水野年方門下の鏑木清方と浮世絵出身の鰭崎英朋は、最盛期に人気を二分したライバル。清方は代表作「百合子」「小ゆき」で清楚で華麗な女性を描き、英朋は出世作「生さぬなか」「かたおもひ」で妖艶な魅力の美人を描く。が、清方が肉筆画にも専念した一方、英朋は挿絵画家を貫いたために、大衆メディアの栄枯盛衰のままに忘れられた存在となります。清方、英朋実力は伯仲、英朋がしばらく顧みられなかったのは残念なことです。

このほか、独学で、「木版口絵」に初期から終焉まで携わった武内桂舟、月岡芳年の門人で清方の師匠の水野年方、小林永濯の門人で歌麿の再来と言われた美人画の富岡永洗、それから、ひと世代遅れて、ハイカラで斬新なデザインの梶田半古の作品もたっぷり紹介。富岡永洗、梶田半古は、福富太郎氏もお気に入りだったと「コレクター福富太郎の眼」展でも紹介がありました。

浮世絵が、海外のコレクターの目に止まらなかったら残らなかったように、木版口絵も大衆娯楽のための消耗品として、これまであまり評価されてこなかったのですね。加えて、富岡永洗も梶田半古も40代ではやくも鬼籍の人になり、人々の記憶から消えていきました。

私は、それぞれの画家の作品が素晴らしいのはもとより、木版口絵の高い技術に驚きました。面相筆で書いたような細かい線描、深みや陰影のある色彩はまるで肉筆のよう、江戸時代の浮世絵とはまたちがう、精緻な描写にびっくり。相当な数の版を重ねたと思います。1枚ものの錦絵ならともかく、こんな繊細で手間暇かかる芸術作品が、口絵として本の間に折り込まれるのですから、他の安価な印刷技術が進めば廃れるのは当然でしょう。

真価を認めるコレクターがいたからこそ、こうして私のような凡人も楽しめる。ありがたいことだなあと、しみじみ感じます。




http://www.ukiyoe-ota-muse.jp/exhibition/kiyokata-eiho21
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日本画家としていまでも広く知られる鏑木清方(1878〜1972)は、明治30年代後半〜大正5年頃にかけては、文芸雑誌や小説の単行本の「口絵」というジャンルで活躍していた。その時、鏑木と人気の双璧をなしていたのが、鰭崎英朋(ひれざき・えいほう、1880〜1968)だ。2人は、月岡芳年の系譜に連なるとともに、美術団体「烏合会」に属した友人同士でもあった。
 本展では2人の画家を中心に、明治の美しい女性たちを描いた口絵の名品を展示。木版口絵のコレクターである朝日智雄の所蔵品のなかから約110点を厳選し、文芸雑誌や小説の単行本を彩った、口絵の知られざる魅力を紹介する。
 また本展では、鏑木や鰭崎が登場する以前に人気を誇っていた、武内桂舟(1861〜1943)、富岡永洗(1864〜1905)、水野年方(1866〜1908)、梶田半古(1870〜1917)による挿絵にも焦点を当てる。



まずは、鏑木清方からご紹介

《花吹雪「文芸倶楽部」口絵》フォト

春に起こりやすい突風、花見茶屋の提灯も煽られて。


《泉鏡花著「無憂樹」口絵》フォト
右は自害しようとするお扇、左は遺書を読むお米。別の場所の場面を屏風を置くことで同時に見せている。口絵ならではの工夫。

《泉鏡花著「風流線」口絵》フォト
すがる女を庇い、男に啖呵きる女性?小村雪岱が泉鏡花作品の装丁、挿絵を請け負ったのは「日本橋」から。その前は鏑木清方だった。このシーンを小村雪岱が描いたらどんなかな、とふと考える。

《菊池幽芳著「小ゆき」後編口絵》フォト
一番清方らしいなあと思った作品。寒さに襟元を合わせるあたりやほつれ髪がいいね。


次は、鰭崎英朋

《泉鏡花著「続風流線」口絵》フォト
「あやしい絵」展でみて、改めて見たかった作品。溺れた女性を助けている図だが、反り返って意識を失った女性の美しさと言ったら!水に透ける体の線も見事。とても版画と思えない。
フォト フォト
「風流線」は、清方が担当、「続風流線」は英朋が担当、二人はライバルだったけれど、同じ烏合会に属し、お互いを高め合ういい関係だったのだろうな。

その証拠か、合作もある。左の女性が清方、右の二人が英朋の作。
《泉鏡花著「婦系図」口絵》フォト
どうとは上手く言えないけれど、違いは明白。
清方の女性が感情を顔に出さずとする奥ゆかしい典型的美人とするなら、英朋の美人は、表情ゆたか。

困惑したり…
《泉斜汀著・泉鏡花補筆「深川染」前編口絵》フォト
手に汗握ったり…
《香汗淋漓「新婦人」口絵》フォト
憂いたり…
《鶴の屏風と美人》フォト
苦悩したり…
《柳川春葉著「たかおもひ」口絵》フォト

影がある美人は魅力的ですよね。
あ、そういえば、多くの美人画に指輪が目立ちました。流行ったのかな。
《柳川春葉著「誓 前編」口絵》
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《横櫛おとみ「娯楽世界」口絵》フォト
つい先だって「あやしい絵」展で、甲斐庄楠音の《横櫛》を見たばかり。鰭崎のお富はぞくぞくするほどの色っぽさ。

鰭崎の作品は全部で35点。ずっと見たかったので思いが叶いました!


次は、清方の師匠水野年方。日本画家のイメージが強いが、口絵の仕事もずいぶんしていたのね。

《小栗風葉著「恋慕ながし」口絵》フォト
夜の賑わう街並みをモノクロームにして、尺八と胡弓で流しをする二人をより際立たせている。人力車、ガス灯、いかにも明治。ただ一つ赤い提灯が二人の傘と着物の赤に呼応して、いいアクセント。

《村上浪六著「当世五人男のうち倉橋幸蔵」続編口絵》フォト
居眠る夫人の見る夢は異国の花と建物なのかな。ロマンチックな構図。



木版口絵の歴史を築いた第一人者、武内桂舟。

《石橋思案著「明治文庫」口絵》
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桜の花や机の筆立ての模様など細かいところも美しく、うっとり

《ちらちら「文芸倶楽部」口絵》
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反対にこちらはラフな描き方だが、供の男が持っているだろう(見えないところがいい!)提灯で、女の足元が明るく照らされている表現など心憎い。


歌麿の再来と言われた美人画の名手、富岡永洗

《尾崎紅葉著「心の闇」口絵》フォト
凍てつく雪の夜を想像させる線で画面を斜めに切って、右下にストーカーするあん摩、左上にそれを恐る女。エキサイティングな場面。

《江見水蔭著「鎌わぬ坊」口絵》フォト
「鎌○奴(かまわぬ)」の刺青をした男、船長だけが許される帆柱を鉈で折って、嵐から転覆を免れたシーン。劇画のようにかっこいい。

《前田曙山著「にごり水」口絵》フォト
妾と愛人が争う場面。バシッと音が聞こえそう。怖!


ハイカラで斬新なデザインの梶田半古。富岡永洗と共に名は知っていたもののまとまって見たのは初めて。

《五来素川訳「未だ見ぬ親」口絵》フォト
原著は「家なき子」当時は、翻訳物も多く、面白いのは舞台がイギリスなのに登場人物の名前は日本人名。絵も西洋人だったり、洋服を着た日本人だったり。この絵も西洋風なのだが、曲芸の練習で踊る猿や犬は、なんとなく浮世絵歌川国芳の猫又風にみえる。

《小栗風葉著「青春 夏の巻」口絵》フォト
帯を結びながらふと庭の蛍に目をやる。これは原画(「さしあげ」という)の展示もあったが、着物と帯の柄が違った。でも、いいなあ、この一瞬の捉え方。

《菊のかをり「文芸倶楽部」口絵》フォト
《実る秋「文芸倶楽部」口絵》フォト
頭頂部をちょっと切るトリミングがうまいなと思う。そのおかげで菊を香る口元と手に、米をついばむ鳥に目がいく。



なかなか見る機会がなかった富岡永洗14点、梶田半古14点を堪能。


展示替えなして6月20日まで。

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