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2021年04月28日10:50

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4/25 コレクター福富太郎の眼 昭和のキャバレー王が愛した絵画@東京ステーションギャラリー

緊急事態宣言によりほとんどの都内美術館が休館した中25日にまだ開館している美術館がwわずかにあった。パナソニックのクールベにするか、松濤のフランシスベーコンにするか…いや、昨年1月から待ちに待っていた展覧会だもの、福富太郎コレクションに決定でしょ。

23日に予約をとり、24日にコンビニで発券。当日ランチは家で菓子パン頬張り、感染回避で直行直帰。
電車もターミナル駅もいつもと同じ人出。美術館は駆け込み多く、当日券買う人も。
緊急事態宣言も3回目ともなるとこんなものだ。そもそも1年前試行錯誤を繰り返してばっちり感染対策をしてクラスターを出していない美術館、博物館、図書館を全て一律に閉鎖するのはどうか。人流を止めるというが、「国民は我慢せよ、オリンピックはやりたいからね〜」では納得はいかない。

それはさておき。

学校から帰ると母がワイドショーを見ていた。福富太郎が喋っていた。一刀両断、話が面白い。キャバレー王という異名から、ちょっとエロい、胡散臭いオジサンだと思っていた。
しかし、父から、戦後苦労して、一代でのし上がり、私生活では「飲む打つ買う」など一切せず、勉強家で美術品売買ではプロ並みと聞いた。
長じて、美術館で名画の所蔵元に福富太郎氏の名を見かけるようになった。
ずっと忘れていたが、2018年訃報が流れた時、マイミクさんが「コレクションはどうなってしまうのだろう」と言って、はっとなった。
でも、昨年1月そのマイミクさんと一緒に山下裕二先生の講演を聞きに行った時、山下先生は、福富氏と生前深く交流していて、今年自分が監修してコレクションの展覧会をやると宣言された。それを聞いてマイミクさんと小躍りしたことを覚えている。以来、楽しみにしていた展覧会である。山下先生と福富氏は親子ほど歳の離れた仲、その二人が生前コレクションを見せ合いながら興奮しながら語り合った姿を想像するとそれだけで楽しい。

2時間半、コレクター福富太郎のゆるぎない審美眼に浸った。今年は、山下裕二先生監修の展覧会が二つ、これと渡辺省亭だ。どちらもMy Best 10に入りそう。

http://www.ejrcf.or.jp/gallery/exhibition/202104_fukutomi.html
福富太郎(ふくとみ たろう/1931-2018)は、1964年の東京オリンピック景気を背景に、全国に44店舗にものぼるキャバレーを展開して、キャバレー王の異名をとった実業家です。その一方で、父親の影響で少年期に興味をもった美術品蒐集に熱中し、コレクター人生も鮮やかに展開させました。念願だった鏑木清方の作品を手はじめに蒐集をスタートさせますが、著名な作家の作品だけでなく、美術史の流れに沿わない未評価の画家による作品であっても、自らが良質であると信じれば求め、蒐集内容の幅を広げていきます。さらには、それに関連する資料や情報も集めて対象への理解を深め、美術に関する文筆も積極的に行いました。その結果、近代作家を再評価する際や、時代をふりかえる展覧会において欠かせない重要な作品を数多く収蔵することになったのです。これまで各地で開催された日本近代美術の展覧会に、福富コレクションから数多くの作品が貸し出されてきたことは、コレクションの質の高さと、福富太郎の見識の高さを物語っています。福富コレクションといえば美人画が有名ですが、本展は、作品を追い求めた福富太郎の眼に焦点をあて、美人画だけではない、類稀なるコレクションの全体像を提示する初の機会となります。鏑木清方の作品十数点をはじめとする優品ぞろいの美人画はもとより、洋画黎明期から第二次世界大戦に至る時代を映す油彩画まで、魅力的な作品八十余点をご紹介いたします。

1コレクションの始まり 鏑木清方との出会い
2−1女性像へのまなざし 東の作家
2−2女性像へのまなざし 西の作家
3−1時代を映す絵画 黎明期の洋画
3−2時代を映す絵画 江戸から東京へ
3−3時代を映す絵画 戦争画の周辺
特別出品


福富氏がコレクションを始めたのは、戦争中空襲で焼け出された時父親のコレクション鏑木清方の絵を持ち出せなかったことに由来するという。16歳でキャバレーボーイになり、26歳で独立、清方の収集を始めたのは1964年33歳の時。1967年収集した作品を持って、真贋を確認すべく鎌倉の清方邸を訪れたという。清方は、特に若い頃の作品を懐かしみ喜んだという。

会場はまず初めに鏑木清方作品が13点、ずらり。その中には、ついこの間「あやしい絵」展で見た《刺青の女》《薄雪》《妖魚》もある。
《刺青の女》フォト
《薄雪》フォト
《妖魚》フォト フォト
《妖魚》は、発表当時賛否両論物議を醸し、清方自身も「失敗だった」といったが、福富氏は「いえ、名作です。きっとどの美術館も借りにくるでしょう」と言ったそうだ。(キャプションには、福富氏の言葉も多く引用があって読み応えがあった。)

艶やかな《南枝綻ぶ》もいいし
フォト

ふわっとした《銀世界》もいい
フォト

京橋の寄席《京橋・金沢亭》のような風俗を描いたものもいい
フォト

清方から始まったコレクションだが、福富氏のコレクションは清方を軸として、江戸伝統を踏まえた美しい彩色と線描の女性像であることが一貫している。
水野年方は清方の師だし、富岡永洗、梶田半古は清方が尊敬、池田輝方・蕉園夫妻と鰭崎英朋は清方の仲間、渡辺省亭や小村雪岱は清方の良きライバル、などなどその系譜はつながっている。

渡辺省亭の師 菊池容斎《塩冶高貞妻出浴之図》
フォト
渡辺省亭《塩谷高貞之妻》フォト
これと同じ系統の絵が「渡辺省亭展」に出ていた!あちらは培広庵コレクション。
渡辺省亭《塩谷高貞妻浴後之図》フォト
こちらは違うパターン。絽(紗?)の着物がますます色っぽい。


渡辺省亭《幕府時代仕女図》
フォト

女の姿勢と傘の向き、なんという洒落た構図。粋な傘といえば、小村雪岱の《おせん 》を思いだすが…
小村雪岱《河庄》
フォト


富岡永洗《傘美人》
フォト

この傘の構図も見事。木目模様の着物も素敵

画像はないが、尾竹竹坡《ゆあたかる国土》は二曲二双の生命力溢れる美しい大作、同じく画像なしだが、池田輝方《幕間》も二曲二双。右は江戸奥女中が仕出しを運び、左は大正時代の娘たちが売店で買い物を楽しむ図。そうそう、池田輝方といえば、山種美蔵《夕立》のように人間模様、物語の一場面がうまいのだ。

池田輝方《お夏狂乱》
フォト

西鶴・近松ですっかり有名になったお夏清十郎の駆け落ち心中もの。へたり込んで、着物の乱れも気づかず呆然とするお夏哀れ。
一方、無名の作家だが、鳥居言人の《お夏狂乱》も持っていた傘が裂け、凄絶な美しさだった。

福富氏は、世間的に高い評価を受けているか否かより、たとえ無名でも自分の目にかなう作品ばかりを買い集めたという。そこがすごい。
昭和30年代池田輝方・蕉園夫妻のコレクションを初めた頃は誰も知らなくて、競争相手もいなかった。
蕉園門下の松本華未《殉教(伴天連お春)》もしかり。
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池田蕉園といえば、思い出すのがこの絵。そうか福富コレクションだったのだ。
《苑の暇》
フォト

大盛り上がりの宴からスイと抜け出したところ、熱った頬に冷たい夜風が心地よく、扇で調子を取りながら先ほどまでの歌を口ずさむ。ああ、上手だなぁ。

池田蕉園で目を引いたのが《秋苑》フォト
フォト淡い色が秋の物悲しさを誘う。
片手で抱き、子猫に頬擦り…ま、ま、まさかここに子猫を捨てて去ってくつもりじゃないよね…

福富氏は、自分が江戸っ子だからか、どうも上村松園にのめり込めないと言うが、コレクトした作品はさすが。私が大好きな絵。ああ、この絵も福富コレクションだったか。
上村松園《よそほい》
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母が娘の着付けを手伝う。ただ美しいだけでなく、母の思い、娘の思いがしみじみと伝わる。

伊藤小坡《つづきもの》
フォト

これもまたいいなぁ。女性は朝刊を手にした途端新聞小説を読み始める。昨日の続きが気になるのだ!新聞の日付は9日だが日めくりはまだ8日のまま、見れば歯ブラシ手拭いを脇に置く。朝の身支度も整えないまま小説に夢中。

北野恒富《道行》
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「あやしい絵展」のメインビジュアルだった。心中物は、欲しい人は欲しがるが、一般には売れないらしい。

北野恒富《浴後》フォト
潤んだ瞳が色っぽい。

松浦舞雪《踊り》
フォト

恒富周辺の画家としかわかっていない履歴不明の画家。一心不乱に踊る姿がなんとも印象的な絵。

島成園《おんな》フォト
これもまた「あやしい絵」展に出展されていた。島成園の作品は時代によって随分違うらしく、「あやしい絵展」ではエグい作品が出ていたが、《春宵》はギリギリ、福富氏の見立て。
島成園《春宵》
フォト


画像はなかったが、寺島紫明《鷺娘》も妖しくて美しかった。



甲斐庄楠音は《横櫛》フォト
《横櫛》は「あやしい絵展」でメインビジュアルとなっていたが、実は3点あるらしい。調べてみた。
フォト

左が「あやしい絵展」でみた京都国立近代美術館所蔵のもの。亡くなった兄嫁をイメージしたらしい。死相が表れている。
中が1918年第1回国画創作協会展に出品したもので、自分を裏切った許嫁に当て込んで描いたという。が、背景を描き直したのが右なので、現在は中は存在しない。これは広島県立美術館蔵。

つまり、《横櫛》は全身像2点と福富太郎コレクションの胸像1点である。
私は、広島のはみていないので京都のとしか比較はできないが、福富コレクションのは、決してあやしい絵ではなく、十分に美人画だと思う。福富氏がもし3点の中から自由に選べるとしたら、どれを選んだかなぁ、やっぱり胸像を選んだんじゃないかな。

前半ですっかり長くなってしまったので、端折りますが、日本画だけでなく、洋画のコレクションも福富氏の審美眼を通して選ばれている。
五姓田芳柳・義松・渡辺幽香の五姓田ファミリー、ワーグマン、五百城文哉など、地方美術館の所蔵品展などで覚えた黎明期の洋画家たちの名がずらり。
山本芳翠《眠れる女》フォト
川村清雄《咬龍天に登る》
フォト

中村不折《落椿》フォト
岡田三郎助《ダイヤモンドの女》フォト
美しいだけでなく何かを含んだような美人画、秦テルヲを描くような底辺の女の絵が好みであると同時に、意志の強い明治女を描いたのも好きだと言っている。
岡田三郎助《あやめの衣》
フォト

切手にもなった有名な絵。現在ポーラ美術館蔵だが、福富コレクションだったんだね。
小磯良平《婦人像》フォト
素早いタッチと省略。小磯良平のポートレイトは都会的で小気味いいので私も好きなので嬉しい。

そして「戦後最高のコレクター」と評すべきは、戦争画の膨大なコレクションにあるだろう。戦争画がタブー視されて失われるのを恐れ、収集したという。それは幼少期に大戦を経験したからこその思い。藤田嗣治や向井潤吉を含む100点が現代美術館に寄贈されている。そういえば、山下先生は、その企画もしたい?する?と言っていたっけ。実現したらぜひ観に行きたい。

宮本三郎《大和撫子》フォト
銃後のまもり
藤田嗣治《千人針》フォト
乳白色でこんな作品もあったんだね
満谷国四郎《軍人の妻》
フォト

特にこの作品は思い入れが深いとのこと。戦後すぐに米国に渡ってしまったのを、1990年クリスティーヌで落札、ようやく里帰りできたとセンチメンタルな気持ちになったと語っている。よく見ると、右目から一筋涙が落ちているそうな。



子供の時テレビで見た胡散臭そうなオジサンは、収集すべきものは何かをよく解っている、気骨ある戦後最高のコレクターだった。感動した。

現在休館中。予定では6月27日まで


これで都内の美術館はほぼ休館。私も必要緊急の用事以外はしばらく自粛生活に入ります。

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