mixiユーザー(id:2083345)

2020年10月21日18:07

132 view

10/20 もう一つの江戸絵画 大津絵@東京ステーションギャラリー

琵琶湖周辺の名所旧跡をくまなく巡りたいとマニアックな旅していた時期があった。記録をみると、1994年春に三井寺、石山寺、坂本から延暦寺、近江八幡から湖東三山、彦根を旅行している。その時に大津に立ち寄っている。大津絵美術館を見て、大津絵のお店でポストカードを購入。それがこれ。
フォト
古い物ではなく、大津絵の後継者(?)が伝統的画題をなぞって描いたもの。黒い輪郭はプリントだが、彩色は手描きで、結構分厚いいい和紙を使っている。(ちなみに郵便番号は6桁)


大津絵は、江戸時代大津宿で縁起物として神仏画を描き、旅人に売っていたのが始まりだという。名もなき画工が、ステンシルなどの方法を用いて短時間でサッと描き上げた大津絵は素朴ながらも手軽なお土産物として大ヒット。が、時代は明治と移り次第に衰退、消えゆこうとした時に保存継承したのが初代高橋松山という人。以来、代々大津で大津絵を伝承しているという。私が買ったのは4代目が描いたものらしい、簡略で伸び伸びとした筆捌き、素朴だが、無駄がない、つまりうまい。


が、同じ日大津絵美術館で見た、古い大津絵は、どう贔屓目に見てもうまくなかった。「観光地の土産もんは粗悪」の王道を行っている。だけれど、なんだか惹かれた。

そして、今回の展覧会だ。もう一つの江戸絵画は、府中美で紹介しているように、上手ヘタ、ユルカワの系譜。
我々にとっては26年前の記憶を辿る待望の展覧会といえる。まだ足の回復がおぼつかないが、見逃したくないので、夫が振休の日に決行。こちらはネットで日時予約、ローソンで発券。近所にローソンがないので不便極まわりない。

http://www.ejrcf.or.jp/gallery/exhibition/202008_otsue.html
フォト フォト
これまで大津絵の展覧会は、博物館や資料館で開催されることが多く、美術館で開かれたことはほとんどありませんでした。それは大津絵が、主として歴史資料、民俗資料として扱われてきたからですが、本展では、大津絵を美術としてとらえ直し、狩野派でも琳派でもなく、若冲など奇想の系譜や浮世絵でもない、もうひとつの江戸絵画としての大津絵の魅力に迫ります。
大津絵は江戸時代初期より、東海道の宿場大津周辺で量産された手軽な土産物でした。わかりやすく面白みのある絵柄が特徴で、全国に広まりましたが、安価な実用品として扱われたためか、現在残されている数は多くありません。
近代になり、街道の名物土産としての使命を終えた大津絵は、多くの文化人たちを惹きつけるようになります。文人画家の富岡鉄斎、洋画家の浅井忠、民藝運動の創始者である柳宗悦など、当代きっての審美眼の持主たちが、おもに古い大津絵の価値を認め、所蔵したのです。こうした傾向は太平洋戦争後も続き、洋画家の小絲源太郎や染色家の芹沢げ陲蕕多くの大津絵を収集しました。
本展は、こうした近代日本の名だたる目利きたちによる旧蔵歴が明らかな、いわば名品ぞろいの大津絵約150点をご覧いただこうというものです。
※会期中展示替えがあります。

1受容のはじまり〜秘蔵された大津絵〜

2大津絵ブーム到来〜芸術家のコレクション〜

3民画としての確立〜柳宗悦が提唱した民藝と大津絵〜

4昭和戦後期の展開〜知られざる大津絵コレクター〜



ちなみにこの展覧会は5月19日〜6月28日に予定していたもの。予定通りだったら山下裕二先生の対談があったのに残念。

さて、今回の大津絵展は「民画の紹介」ではない、大津絵に「芸術性」「美」をみいだし愛してやまなかったコレクターたちの展覧会でもある。

大津絵自体の画題は何種類もあるが、売れないものは自然となくなり、売れるものは量産される。浮世絵のようなきちっとした版画ではなく、一部版画(判子)や型抜きを使って後はフリーハンドで描くものだから、同じようでも原画とはどんどんズレが出てくる。もっとも画工は「芸術」だなんて微塵も思っていないから、オリジナリティを出そうとか、ここをもっと工夫しようとか、そんな向上心は全くなく、ただ、量産していくうちに原画とズレていくといった具合だ。あえて工夫と言うなら、ここを簡略すればもっと早く描ける、量産できるといった工夫はあった。

私はコレクターではないからよくわからないが、骨董品は希少性とその状態が良いものに越したことはないけれど、やっぱり微妙な味わいの違いが決め手になるんだろう。展覧会では、ランダムに繰り返し同じモチーフが出てくるから、それを見比べてみるのも面白かった。キャプションには、それぞれに誰の旧蔵品かが書かれているので、尚更面白い。
《鬼の念仏》は〇〇氏の所蔵が一番立派だったが、色っぽい《女虚無僧》や《傘さす女》を集めた××氏の趣味は悪くないね、とか。
ちなみに、笠間日動美術館蔵のものは富岡鉄斎、小糸源太郎旧蔵のものが多かった。特に小糸源太郎は大津絵LOVEで、戦後再収集しているし、自分でも描いている。そして今回出品は柳宗悦の日本民藝館所蔵が圧倒的に多かった。民藝館でも大津絵展をやったことあるのかな。
とにかく、大津絵をこれだけたくさんいっぺんに見たのは初めて。しかも、その筆捌き、即興性は確かにコレクター選りすぐりの「名品」ぞろいなのだ。



そもそも大津絵とは、江戸時代に大津宿で売られていた簡略な仏画がルーツ。そのうち、教訓的な「道歌」が添えられて、江戸末期に護符の役割も持った。ジャンルとしては以下の通り
聖:仏画、吉祥、庶民の神々
邪:鬼、雷
美男美女英雄:藤娘、鷹匠、為朝、弁慶、頼光
動物:猿、猫、鼠、鳥、馬、牛、鯰、象、虎など

初期の頃は縦長和紙の2枚継だったのが、のちに1枚に簡略化。
絵も、思い切った簡略画、大まかな輪郭はステンシルや木版画を多用し、手描きの彩色は、朱、白、緑、茶など安価な泥絵具で。
画題はだんだん絞られていって、多く描かれたものは「大津絵十種」と呼ばれる。



江戸時代大流行したのに明治に入って急に廃れる。元々安価なお土産ものだから散逸免れがたし。が、その価値を見出し、保存したのが明治期のコレクター。富岡鉄斎や浅井忠などの画家に加え、俳人、歌人、学者、記者の粋人たち。1912年(明治45年)大阪のギャラリー「吾八」で開かれた「大津絵展」でますますコレクターに火がついた。
大正時代には、梅原龍三郎や小糸源太郎など画家や工芸家が「これは一つの立派な絵画だ」と称賛、収集に励む。そして1926年(大正15年)大津で「大津絵展」が催され、民藝運動家の柳宗悦が本格的な研究を始める。
昭和の時代は、戦災で多くの作品が焼失したが、戦災を免れた日本民藝館に40余点残り、コレクター米浪庄弌が100余点を民藝館に寄贈。



以上が今回得た知識。案外ちゃんと知らなかったのでいい機会だった。



画題で面白いのはなんと言っても鬼。どれもユーモラスで憎めない。
《鬼の念仏》フォト フォト
牙が下向きのものだけのと、上向き下向きになっているものとあった。


《鬼の三味線》フォト

《頼光》フォト
こちらは源頼光の鬼(酒呑童子)退治。鬼の首を頭に乗せている。

《鬼の行水》フォト
鬼のムキムキ筋肉の描き方は、俵屋宗達の風神雷神図でなるほどと思ったが、この絵師だって本当はそれを表現したかったんだろう。ムキムキ筋肉とモジャモジャの体毛、結局稚拙な線描きとなったが、描きたかった気持ちはわかるよ(笑)

ちなみに、上のカブトガニみたいなのは雷雲で腰蓑をつけているんだって。なんとも言えない表現力!
こっちはまだマシ?フォト



それに比べて、こちらはかなり上手。
《傘さす女》フォト
《藤娘》
フォト
ちょっと色っぽい体の捻り方や着物のひだなんか、これは相当うまい人が描いたんじゃないかと思わせる。《女虚無僧》も色っぽかった。浮世絵美人画がわりに気軽に買えたのね。



《弁慶》フォト
着物のひだや鎧はこちらもいい。顔の色を黄土にせずに灰色にしたのも弁慶の強さ誇示?少ない色数でうまく配色。

こんな画題も面白い。
《瓢箪鯰》フォト フォト
猿が瓢箪で鯰を押さえ込もうという図。鯰は地震?浮世絵に出てくる画題を簡略化か。

《猫と鼠》フォト
鼠に酒を飲ませる猫の魂胆は…箸でつまんで勧める肴は唐辛子なのね。この画題、幾つも登場するのだが、猫と鼠が入れ替わっている!
フォト
やっぱり猫が鼠にしてやられる方が面白いってことか。

《天狗と像》フォト
天狗と象が鼻の長さを比べる。江戸時代珍しい渡来物の象さんは人気。

《大黒外法の梯子剃》フォト
これもたくさんあった。梯子に乗って大黒様が福禄寿(外法)の頭を剃っている図。禅画では布袋様が人気だったけれど、大津絵では大黒様が人気。

《座頭》フォト
座頭の絵は犬に褌を引っ張られているの図がお決まりのよう。検校に代表されるように座頭は障害者という括りではなく悪人なんだよね。こんな絵が売れるのかしら。

《青面金剛》フォト
今回気になったのはこれ。三尸の虫で有名な庚申信仰の本尊。上部左右にあるのは日月輪。光背共々ちゃんとコンパスを利用・綺麗な円。二匹の猿と二羽の鶏を従えていて、どの絵も猿はステンシル、鶏は木版画。ご丁寧に掛け軸まで描いてある。庶民はこれを持ち帰り、破れ襖にでも貼ったのかしら。素朴な信仰にほのぼの。



コレクターがまとめた「大津絵画帖」(日本民芸館蔵)や「大津絵図鑑」(福岡市博物館蔵)は表装も見事だった。


フォト フォト

11月8日まで




25 8

コメント

  • mixiユーザー

    mixiユーザー2020年10月21日 19:04
    これだから、そえにゃん様には先にご鑑賞戴きたいのです。素晴らしいレポート。またどうして琵琶湖周辺なぜにご注目を?

    大津絵は好物なので掟やぷりでカタログ購入してしまいましたあせあせ

    現代の大津絵お持ちとは羨ましい。テーマは?
  • mixiユーザー

    mixiユーザー2020年10月21日 19:39
    大津絵、楽しいですよね〜。漫画、だわ。ストーリーも感じられるクスクス画。
  • mixiユーザー

    mixiユーザー2020年10月21日 20:16
    雷雲???腰みの???
    相当面白い。江戸の庶民って生活楽しんでたよね。
    それにしても大津絵知りませんでした。
    日本人って素敵ね。

    ・・・そして・・・最後のくだり・・・庚申信仰・・・

    ぢつは・・・うちのあたり・・・つい最近まで
    「お庚申さま」っていう行事があったの。
    江戸時代かビッグ家周辺。
    タイムカプセルかっっっ!!!???

    そのほかにも
     ・薬師堂万灯
     ・十九夜さま
     ・子安講
     ・箸供養
     ・三組祭
    ・・・様々な行事がございました。
    今やほとんどなくなりましたが、名残は満載でございます。
    まるっきりなくなるのもちょっとお名残おしいかも。
    東京育ちのビッグさんはすっかり郷土色に染まってしまった。
  • mixiユーザー

    mixiユーザー2020年10月22日 21:18
    > mixiユーザー 
    先に作品リストをお送りくださり、予習ができました。美術的に、予想以上に良い展覧会でしたね。

    夫が司馬遼太郎ファンでして、私が中国にハマる前までは日本の歴史旅をよくしました。仏像も城も好きで。この時の旅行は、延暦寺の麓坂本の穴太衆の石積みに興味があり、どうせなら数回に分けて琵琶湖を東西南北から攻めてみたいと思っていました(結局頓挫したけれど)

    大津絵の店、今もあるようです。今は5代目なのかな。
    http://www.otsue.jp/
    受け継がれてきた画題を踏襲していますが、なかなかに洗練されていると思います。
  • mixiユーザー

    mixiユーザー2020年10月22日 21:22
    > mixiユーザー 
    そうそう、漫画ですね。
    江戸時代、浮世絵が大流行、それに比べてこちらのお値段がどのくらいだったのかまでは調べていませんが、人気絵師の浮世絵よりうんと安かったのではないかしら。なんと言っても旅のお土産。たくさん買ってもかさばらないし、ご近所に配るのも最適。そうそう、仏画はどうやらキリシタンではないの免罪符がわりにもなったそうです。下手すぎてとてもありがたみがあるようには見えないのですが、仏様には変わりないですし。
  • mixiユーザー

    mixiユーザー2020年10月22日 21:26
    > mixiユーザー 
    宿場は大津だけではないのに、大津絵だけがこんなに盛んだったのはなぜかしら。それとも昔は各宿場にこんな土産物があったのかな。そういえば昭和の時代はペナントが流行りましたよね。
    ビッグさんとこの庚申様のおまつりは日記でよく覚えています。当番になるとお料理作って大変なのよね。三尸の虫がでてきて悪行を告げ口しないように一晩中起きているんでしたっけ。コロナで今は中止縮小かな。寂しいですね。
  • mixiユーザー

    mixiユーザー2020年10月23日 01:03
    > mixiユーザー おお!ご主人様同好の士!大学で駒田信二教授の中国説話の授業中「これから司馬遼太郎と食事だから、ファンはこっそり見においで」とリーク。無論馳せ参じ何気に隣のテーブルゲットしふっさふさの白髪頭の司馬をよそながら垣間見ました。石組みにご注目とは渋い!よくTV出てくる城廓研究者が泣いて喜びそうスマイル

    そえにゃん様は中国地方?それとも中国の方に御興味の方で旅を?
  • mixiユーザー

    mixiユーザー2020年10月31日 22:18
    > mixiユーザー 
    わぁ、司馬遼太郎氏のご尊顔を拝したとは羨ましい。夫がすごく好きで「街道をゆく」を辿って旅行したりもしました。その頃は1日2万歩以上は当たり前の徒士旅行、今思えば元気だったなぁ。
    中国地方特に瀬戸内は好きで旅行しましたが、80年代後半から中国語を初めてそこから中国大陸にどっぷりハマりました。天安門事件を機に中国は変な方向に向かってしまったけれど、その頃の大陸は素朴でエネルギッシュで、しかも4000年の歴史ありで、魅力的でした。翻訳、専門学校講師もやっていたんですが、今や忘却の彼方…

mixiユーザー

ログインしてコメントを投稿する

<2020年10月>
    123
45678910
11121314151617
18192021222324
25262728293031