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2020年06月29日15:23

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6/27 森村泰昌:エゴオブスクラ東京2020ーさかよえるニッポンの私@原美術館



森村泰昌氏については、1998年に東京都現代美術館で「空想美術館 絵画になった私」という大回顧展を観ている。


https://www.mot-art-museum.jp/exhibitions/1998/78/



メイクと衣装と小道具を駆使し、写真表現を手段として、自ら古今東西の有名絵画になりきる森村泰昌氏。当時その言葉すらなかった「ジェンダー」に対して一石を投じるような作品はかなり衝撃的だったと記憶している。会場では、大ヒットした「プリクラ」で、夫はマネの「笛を吹く少年」に、私はダ・ヴィンチの「モナ・リザ」に扮し、展覧会のお土産にしたっけ。








すご〜く変わったことをする大阪のおっちゃん?おばちゃん?的な森村氏に、ややキワモノ的な興味があったのも事実だったが、このシリーズをずっと続けて、そのものになりきることによって、さまざまな角度から物事の本質に迫ることの凄さにずっと感じ入っている。展覧会そのものは、その後2010年都写美を見に行ったくらいだが、注目していたアーティストの一人だ。

一方、原美術館へ初めて行ったのは、開館してまだ数年、おそらく1980年代だったと思う。どんな展覧会を見に行ったのか全く覚えていないのだが、お洒落な建物とカフェが魅力的だった。


現在常設となっている森村泰昌《輪舞》も現代美術館でお馴染みの宮島達夫《時の連鎖》も、須田悦弘《此レハ飲水ニ非ズ》や奈良美智の《My Drawing Room》もなかった。

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建物がモダンで、設計者は東博本館や銀座和光と同じ渡辺仁氏という。1938年竣工と言うから随分と古い。もちろん、その作りから、最初から美術館ではなく、資産家の邸宅だったことはすぐわかる。


小さな美術館だし、現代アート専門なので、以降わざわざ訪れることもなく現在に至る。ただ、芝生の見えるおしゃれなカフェにワイン1瓶とおつまみがセットになったメニューがあって、その時に入らなかったのがいかにも心残りだった。



1月25日森村泰昌の展覧会が始まった。そして、美術館が老朽化のため今年いっぱいで閉館となることを知る。これは行かねば、と思った矢先、コロナ禍で臨時休館、会期が二転三転、展覧会自体延期の動きもあったが6月9日から7月12日までの開催が決まった。ありがたい。早速ネットで日時予約、行ってきました。
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http://www.haramuseum.or.jp/jp/hara/exhibition/842/

名画や映画の登場人物あるいは歴史上の人物に自らが扮するセルフポートレイト作品で知られる森村泰昌は、巧みなメイクや衣装で、時代や人種、性別を超えて様々な人物に自らが成り代わり、制作を通して原作やその背景に独自の解釈を加えてきました。
本展では、自らが脚本を手がけ自演する映像作品「エゴオブスクラ」と、この映像を用いて会期中開催される作家自身によるレクチャーパフォーマンスを通じて、作家は日本近現代史、文化史に言及します。戦前の教えが否定され日本人に広がった「空虚」、そこは西洋の価値観で埋められていきました。1951年、大阪に生まれた森村は、その時代の日本で教育を受けた個人的経験から、やがて「真理や価値や思想というものは(中略)いくらでも自由に着替えることができるのだ。」(映像作品「エゴオブスクラ」より)という発想を導きます。森村は耳慣れない言葉「エゴオブスクラ(Ego Obscura)」に「闇に包まれた曖昧な自我」という意味を込めました。愛情のみでは語りつくせない母国への複雑な感情をにじませながら、森村は「さまよえるニッポンの私」とは何かを模索します。




入場はネットにて完全予約制。映像作品「エゴオブスクラ」(53分)が30分ごとに2箇所で上映され、それに合わせて選ぶようになっている。私は、2階のギャラリー5(映画館風設えてある)で13時半上映の回を予約。1階の方は上映中でも出入り自由になっていてやや開放的な講堂、2階の方は閉鎖的なシアター風なので、こちらを選んで正解だと思う。
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席はソーシャルディスタンスを守って一つおき。回が終わるたびに、スタッフが座席を全部消毒していた。
ありがとうございます。

カフェにも行きたかったので、予約時間前に入館してはいけないのかと電話で問い合わせたら、入館する時間は自由らしい。12時少し前に入り、受付でプリントを提示、料金を支払って入館した。
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狭い館内なので入館者は少ないが近距離ですれ違うのは仕方がない。おひとりさまが多かったのでとても静か。



案内によると、予定していた本人によるレクチャーパフォーマンスはコロナ対策で全て中止。これには断腸の思いであったろうと思う。なので、なおさら53分の映像作品は絶対見逃してはならない。
2階の作品を映像の前後に2回見ると良い、理解が深まる。



ギャラリー1は《”エゴオブスクラ”の部屋》が中央に。
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テーブルに乗っているのは、金髪のカツラ。これは2階のマリリン・モンローの?



《鏡を持つ自画像》フォト

昔の女優さんのようなポートレイト。しかし、よく見ると鏡の映り方がおかしい。この正面にあるのが《フリーダとの対話(ざわめき)》
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氏の言葉に考えさせれらる。《空虚(衣服)》
「内面奥深く、私の中心らしきところをいくら探しても、「真理」に出会うことなどありえず、ただただそこには「空虚」が広がるだけなのだということを私は子供のころからよく知っていました。
むしろ心理や価値の思想というものは、私の身体の外側にあって、それはまるで「衣服」のように、いくらでも自由に着替えられることができるのだ。
そのように捉えたほうが、私にはずっとよく理解できたのでした。」


中心にある空虚が、実は戦後日本そのものであることを、展示を見進めていくうちに理解できる。
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1階廊下には、モノクロ写真が並ぶ。あ、三島由紀夫をモデルにした細江英公《薔薇刑》だ…と思ったら、森村氏のセルフポートレート《薔薇刑のの彼方へ》だった!なんと完成度の高い!!!



この先はカフェ。戻って、最も広いギャラリー2へ。
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ここには、マネの傑作《オリンピア》と先日コートールド美術館展で見たばかりの《フォリー・ベルジェールのバー》の森村版が、実物よりも大きなサイズで並ぶ。
その舞台装置と小道具も。
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こちらがマネ《オリンピア》参考フォト

《モデルヌ・オリンピア2018》フォト

《肖像(双子、習作)》

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白人の高級娼婦と黒人の召仕を、日本髪を結った日本女性(蝶々夫人らしい)とそれを品定めする白人男性にすり替える。再び、白人女主人と黒人召使に戻すが、演じるは黄色人である森村で、打掛の衣装と招き猫だ。



森村の言葉《着せ替えごっこ2(西洋的図式)》
「
しかしそれと同時に、私は、あの白い肌をした主人公が黒い肌の召使いを従えているという西洋的図式の上に、日本がアジアを支配しようとした歴史を重ねることなしに、マネの「オリンピア」を見ることはできないのです。」

マネ《フォリー・ベルジェールのバー》参考
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《劇場2020》フォト

この絵が来日したときに、女性の表情がなにを意味しているのか、と、鏡に写ったものの配置に不自然さに話題が集中したが、この絵で森村氏がそれらをどう消化しようとしたかがわかって面白い。



さて、上映時間も近づいてきたので、2階へ。
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階段には《マニフェスト(烈火の季節、垂れ幕)》がさがる。この意味も映像作品を見てわかった。


ギャラリー3は撮影不可。
《思わぬ来客》は、マッカーサー元帥と昭和天皇との有名なツーショット写真を模したものだが、背景は森村氏の生家であるお茶屋さんで撮影されている。オトコだった日本は、戦後オンナの衣装に着替え、オトコのアメリカと結婚したのだと、森村氏はいう。
確かに、かのツーショットは、日本がアメリカに嫁入りする結婚写真に他ならない。威風堂々とした大柄なマッカーサーの横に並んだ昭和天皇は小さくて、悲しかった。



ギャラリー4では、マリリン・モンローと三島由紀夫が登場。モンロー扮した森村は講堂に座る東大生の前で翻ったスカートの裾を抑え、三島由紀夫扮した森村が自衛隊駐屯地前で檄を飛ばす。それぞれの衣装が中央に展示。

モンローと三島は対極。三島はオンナの衣装を纏った戦後日本に殺されたオトコ、モンローは、強く支配的なオトコの衣装に身を包んだアメリカに殺されたオンナと捉えている。映像では、森村がモンローか三島へ変貌するシーンが静かに捉えられ、ぞくっとした。

日本の中心にあるものは、真理や本質ではなく「空虚」であること、だから日本はどんな衣装でも纏わせることができるし、そしてそれが似合う。ロラン・バルトの言葉だそうだが、まさに森村氏の作品はそれを「可視化」してくれているのだなと思った。

館内には、他に《愛と憎しみのための球》が3箇所、3つある。意味がわからん…
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また旧作品として《輪舞》も。
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他には宮島達夫《時の連鎖》も、須田悦弘《此レハ飲水ニ非ズ》や奈良美智の《My Drawing Room》ジャン・ピエール・レイノー《ゼロの空間」など。

窓の外に見える竹箒の垣根(エアコン室外機を隠している)は杉本博司氏の作品だって。
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アルバムはこちらにあります。
https://photo.mixi.jp/view_album.pl?album_id=500000107030766&owner_id=2083345


7月12日まで
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