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2020年03月16日21:07

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3/15 ふつうの系譜京の絵画と敦賀コレクション＠府中市美術館

 都内の美術館がほとんど休館の中、予定通り3月14日にに始まった府中市美術館の「春の江戸絵画まつり」
奇跡的！涙が出るほど嬉しい～！ いつもは公園の桜の開花に合わせていくのだけれど、今年はどうなるかわからない、見られるうちに！と飛んで行きました。府中駅からバスに乗った方が近いのだけれど、混むと怖いので、東府中から歩きました。

公園の桜はまだまだ、蕾がやっとわかるくらい。でも芝生では子供たちが歓声を上げて走り回っていた。

さて、昨年の江戸絵画まつりは、ゆる～くヘタウマの「へそまがり日本美術」(こちら）で大笑いしたけれど、今年のタイトルはなんと挑戦的な！
美術史家辻惟雄先生が著した「奇想の系譜」をもとに、山下裕二先生が監修した「奇想の系譜展」は折からの若冲、蕭白人気で大ヒット。弱小美術館がその向こうを張るの？？ 
「奇想」という魅力は「ふつう」があってこそ成り立つもの、若冲や蕭白がセンセーショナルに登場した一方、誰もが美しいと感じる絵を描く画家いたことに着目、それもまた「驚き」「感動」であって、豊かな歴史と美の手法が画面のうえに尽くされている。
「ふつう」の魅力を知れば、「奇想」も、さらには「日本美術史」全体を広く深く味わうことができると提唱しているのだ。府中市美術館の企画はいつも本当に楽しい。わかりやすいキャプションを読みながら、楽しく知識を得、鑑賞眼を養っていける。すごいな、府中市美術館。  

ところで、本当にフツー、つまり、キレイだけが取り柄の平凡な絵画（私の解釈では）だけかと思ったら、全然そうじゃなかった。みていくうちに、何をもって我々は「フツー」などと言って、下に見てきたんだろうと脳内混乱。世の中には、確かにヘンテコだったっり、並外れたものはあるけれど、逆に、フツーなんてないのかも、と思った。つまり、我々が無意識に切り捨ててきたものは、劣悪だったり、真似っこだったりして、心を揺さぶらないモノなのだ。それはフツーではない。フツーとは「普く（あまねく）通ず」るもの、みんなが広くいいな～、すごいな～と感動するものなんだね。それは却って難しい。卓越した技術と伝統が必要だ。

今回の展示作品のほとんどが敦賀市博物館所蔵のもの。紹介パネルがあったが、昭和初期の銀行建築。重厚で美しい建築物、機会があったら行ってみたい。

 
https://www.city.fuchu.tokyo.jp/art/kikakuten/kikakuitiran/futsu.html
http://fam-exhibition.com/futsu/
いま、江戸時代の画家の中で、伊藤若冲や曽我蕭白ら「奇想の画家」が人気です。鮮やかな色やおかしな形にあふれた若冲の絵も、蕭白の奇怪な人物画も、強烈で奇抜で、心を揺さぶります。
しかし考えてみれば、「奇想」という魅力は、「そうではないもの」、つまり「ふつう」があって初めて成り立つのかもしれません。
美術はすべて「驚き」です。奇想の作品のように、呆気にとられたり気持ち悪かったりすることもあれば、きらきらした美しさにときめいたり、あるいは、穏やかな夢心地を味わえる絵もあります。描き手たちは、一枚の平らな画面の上に、見た人の心をさまざまに動かすための技術や工夫を込めてきたのです。
「奇想」への注目によって「ふつう」になってしまった江戸時代の「きれいなものづくり」ですが、そこには、豊かな歴史と美の手法が生きています。そんな「ふつう」の魅力を知れば、奇想も、そして「日本美術史」という更なる広い世界も、もっともっと輝いて見えることでしょう。

Ⅰ「ふつう画」の絵画史 
「ふつう」でないもの　たとえば蕭白、又兵衛  最初に「奇想」と呼ばれる普通でない作品を数点紹介。
伝岩佐又兵衛《妖怪退治図屏風》

これは、奇想の系譜展でも出ていたかな。くどくどしい色彩で、鬼神の容姿も桁外れだが、矢を放つものが少ないのに、これだけ鬼に矢が刺さっているのは、描いていないが上方から千手観音が矢を射てるからだそうな。 

1.専門は「まろ画」やまと絵

  やまと絵は平安時代から受け継がれてきたもので、柔らかな線と形、青や緑、金の色彩が特徴。貴族の雅な世界を描くので府中美では「まろ画」と命名（笑）
江戸時代には、土佐派、さらに分かれて住吉派、さらに分かれて板谷派ができた。また、復古やまと絵も生まれた。 
土佐光ざね《仙洞御所修学寺御幸図》はまろが行列作って可愛い～
 土佐光起の《菊鶉図》は中国に倣った繊細な羽の鶉とたおやかな日本の花の見事な融合。いずれも画像なく残念。
冷泉為恭《五位鷺図》 

帝が鷺を捕らえるよう家来に命令、家来は鷺にそれを話し、連れ帰ったところ、殊勝な鷺だということで五位を与えたという故事。家来と鷺の対話がほのぼの。ちっさい絵なのに細かい。

2.専門は「中国」を見せること　狩野派

室町時代、宋や元からもたらされた中国絵を日本で再現。ガッチリした山水画や中国風の花鳥画、中国の故事や仙人を描いたものなど。
安土桃山時代に狩野永徳が人気を博し、江戸時代に狩野探幽が現れて江戸狩野を広めた。まろ画とは対照的に、深遠な世界や気骨さ、壮大さを表現。幕府の後ろ盾があり庶民まで広く浸透、不動の地位を築く。 出光の「狩野派展」をみに行かれなかったのが悔やまれる。

3.「斬新」からあっという間に「ふつう」へ　円山応挙と円山四条派

目に映るものをリアルに描くという新しい絵画を生み出した円山応挙。これまでになかった斬新な画法だが、あっという間に広がり「ふつう」へ。応挙の弟子たちは円山派と呼ばれ、弟子呉春は応挙風絵画に俳画を融合し、四条派として継承。
円山応挙《狗子図》

応挙といえば、春の江戸絵画まつり「かわいい江戸絵画」でコロコロの子犬がブレイク。常設展の方に、探幽の子犬と応挙の子犬が並んでいたが、探幽の子犬は毛がぬめっとして目が怖くてテンみたい、応挙の子犬はフワフワの毛玉、ころころと笑みを誘い、現代のかわいい概念にぴったり。 
今回は、同じ三匹を違うポーズで描いた個人蔵の作品と並べて展示。同じ安永７年、個人蔵のは仲冬に、敦賀のは暮冬とある。
 源琦《藍采和図》は透明感あってスッキリ、松村景文《合歓花小禽図》はほわっとした優しい筆遣いで、どちらも素敵だった。

⒋ パーフェクトな形　原在中と原派
　
原在中は、漢画と土佐派的やまと絵の両様を取り入れて宮中貴族の間で活躍。異様なほど整った形を追求し、細かく、スッキリと仕上げているので、却って個性的。かなり微妙な絵もある…
 原在中《嵐山図》 

嵐山に必要な要素は全部入れ、散る花びらまで細かく描かれていた。完璧目指す。

⒌ 「奇想」と「ふつう」の間　岸駒、岸派
19世紀、若冲や蕭白ほど奇抜ではないが、ふつうとも言い切れない岸駒が登場。沈南蘋風に応挙の清涼感がプラスされた感じ。岸駒の弟子は岸派と言われる。
 岸駒《白蓮翡翠図》

小刻みに震える線が特徴的だが、茶色に変色した葉の先に気迫を感じる、これ、ふつうなのかな。上手さが普通じゃない。
岸連山《龍虎図》は、定番の題材、セオリーの配置、全部ある意味ふつうだが、虎の毛流れがうねっている様、ガシッと木の幹を掴む爪、やはり上手い。
岸竹堂《群鳥図》は1枚の絵に鳥が沢山、数えてみたら42羽、もう一回数えたら45羽、いやはやどんだけ描いているんだろう。

⒍ 「ふつう画」のゆくえ　明治以降の画家

日本の絵画は、線や形のみの力、筆遣いの迫力、余白の美しさを大事にしてきた。が、明治に入り、ヨーロッパの迫真画法が優位となり、画家たちは難しい局面に立たされる。結果、応挙流画法で、しかも見えたものは全部描いて迫真性を上げる方法を取り入れた。苦心の作が今見るとかなり不自然。
鈴木松年《朝陽蟻軍金銀搬入図》は、金地背景のやまと絵なのに、よく見れば蟻の行軍。これには参った。面白い。

Ⅱふつう画の楽しみ方

Ⅰでは、ふつう画について歴史的流れを学んで頭で理解、それでも「ふつう画」の良さがわからない人のために、どうしたら「いいなぁ」と思えるようになれるか、心を開くための試み。
府中市美術館がみんなに愛されるところ。学校が休みの今こそ子供たちにもみてもらいたいなぁ。

 ⒈「精密さ」と「たゆたう感じ」
⒉「絵具の美しさ」と「墨の深さ」

それぞれの２点を対照させながら、絵画の面白さを見る。
原在中《関羽図》は、整いすぎる嫌いがある原在中だが、キッパリと墨で描いた関羽は武将らしくかっこいい。
復古やまと絵の浮田一蕙《十界曼荼羅》は細密で美しくカラフル。だが、使っている岩絵具は、金、朱、緑青、群青などたった数種。  驚きだ。

5月10日まで　途中展示がえあり

判子で伊勢図の姫や応挙の子犬を完成させるコーナーや水墨塗り絵を体験できるコーナー、土佐派の屏風を作るためのミニ屏風のお土産もあって、楽しい。後期は水墨塗り絵をやってこよう。