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2019年11月04日23:22

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11/3 エドワード・ゴーリーの優雅な秘密@練馬区立美術館

この秋の展覧会では、正倉院もハプスブルグ家も気になるが、それは「有名どころ」だからであって、自分に正直に、見逃したくない優先順位をつけるなら、上野より練馬や目黒なのだ。それでこの日は、練馬区立美術館「エドワード・ゴーリーの優雅な秘密」展へ行った。文化の日は近美は企画展すら無料になるのだが、今年は優先順位を考えてパス。そういえば一昨年は近美ですっ転んで顔面を怪我したっけ、くわばらくわばら。

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エドワード・ゴーリーは若い女性に人気らしく、存外混んでいた。作品の多くが、キャビネサイズ前後の小さめなうえ、細いペンで緻密に描かれているため、最前列でないとよく見えない。しかも、何とはなしの不穏・不安な画面に惹き込まれ、目を凝らしてしまうので、1作品の滞留時間が長くなり、あちこちで渋滞発生。これ以上混むと鑑賞に差し障るので、会期終了間際は要注意だ。行くならお早めに。

点数も多いから、見終わった頃は眼精疲労でちょっとぐったり。最後のコーナーは、数々の絵本を手にとって読めるのだが、椅子が高さ30cmもない低さ(子供向け展覧会でもないのに何故?)で、私の場合は座ることもできず、立ったままでは3冊ほど見るのがせいぜいだった。どの本も面白くて、全部読みたかったよ、残念。後述するが、ゴーリーが日本贔屓の大の猫好きだってこともポイント高し。面白い展覧会でした、おすすめです。
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https://www.neribun.or.jp/event/detail_m.cgi?id=201906011559352588
アメリカの絵本作家エドワード・ゴーリー(Edward Gorey 1925-2000)のアイロニカルで少し不気味な独特の世界観と、繊細なモノクロームの線描は、世界中の人々を魅了している。近年、『うろんな客(The Doubtful Guest)』『不幸な子供(TheHapless Child)』などの絵本の翻訳が次々と発表されたことにより、日本でもその人気が高まっている。
ゴーリーは、新聞記者の父エドワード・リード・ゴーリーと母ヘレン・デュマのもとに、シカゴで生まれた。少年時代より読書好きで、イギリス古典文学にも親しんだ。美術を学ぶために、シカゴ・アート・インスティチュートに進学したゴーリーは、第2次世界大戦での従軍により学業が一時中断されたものの、終戦後にはハーバード大学へ進み、フランス文学を専攻。この学生時代に、美術と文学のみならず、歌舞伎やバレエなどの舞台芸術や様々な分野、地域の芸術に対する造詣を深めた。学生時代に養われた芸術への見識は、彼の創作の根幹を築いている。
ゴーリーは、1950年から本の制作活動をスタート。彼の絵本世界は、幻惑的な物語と繊細で優雅なイラストで構成されている。文学に傾倒したゴーリーらしく、古語や造語、押韻などが散りばめられたテキストによって、複雑で謎解きのようなストーリーが組み立てられ、細いペンで描かれた個性的で不思議な登場人物たちが物語の世界を演じて見せる。
また、ゴーリーが生み出したのは絵本の世界だけではない。舞台芸術を愛した彼は、それらの衣装や舞台デザインやポスターなども手掛けている。このようなゴーリーの世界観に、シュールレアリストのマックス・エルンストや映画監督のティム・バートンなど多くの芸術家や文化人が魅了されている。ゴーリー自身が、ファイン・アートからポピュラー・カルチャーまで、ジャンルに囚われず幅広く愛好したように、彼の芸術はあらゆる新しい創作の源泉となっている。
本展は、ゴーリーの没後に、エドワード・ゴーリー公益信託とブランディーワイン・リバー美術館によって準備された世界巡回の原画展を、日本ではじめて公開するもので、2016年より日本全国各地で巡回している。原画に資料や書籍などを加えた約350点から、ゴーリーの世界観を紹介する。

第1章 主著:ゴーリーによるゴーリーの世界
第2章 イギリスのナンセンス詩や文学とゴーリーの挿絵 
第3章 ゴーリーの多様な創作と舞台美術 

《うろんな客》フォト
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とある家庭に見たこともない奇妙な生物が入り込み、食事の輪に加わったり、家の中を歩き回ったり、様々ないたずらをしたり、わけのわからない行動を繰り返しつつ、17年以上も家に居つくという物語。理不尽な話だが、キャラクターがなんとも言えずいい。ゴーリーの絵本には、このうろんな客以外にも、《題のない本》の中の爬虫類系ヘンテコ生物や《オズビッグ鳥》とか、独自のキャラクターが沢山ある。
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ちなみに、参考資料として、それらのぬいぐるみの展示もあったが、絵がぐにゃっとしたぬいぐるみになると、いよいよ胡乱であった。
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《不幸な子供》フォト
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《うろんな客》は憎めないキャラクターとそこはかとなく漂うユーモアにクスッとしてしまうが、この話は救いようがない。シャーロットという女の子に次々と襲い掛かる不幸、虐げられて目も見えなくなって車に轢かれたが、実は生きていた父に再会できたと思いきや、あまりの変わりように娘と判らなかった、で話が終わる。何にもオチがなくて読んでいるこちらがオロオロしそうだが、全ての絵にちらと登場する不幸を暗示させる怪物探しに気を取られ、惹きつけられる絵本だ。ちなみにこの絵の中では、右上の壺の中に怪物の尻尾が見える。

《ギャシュリークラムのちびっ子たち》フォト
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これもオチなし。アルファベット順に子供が、階段から落ちたり、熊に襲われたり、いろんな形で死んでいくのを淡々と語る。普通こういうのには、何かしらの教訓が含まれているものだが、全くなし。本当にないのか??って探すが、ない(笑)それでも、ゴーリーは「大人のために描いた絵本ではなく、子供のために描いている」というのだから不思議。でも、お気に入りのペンとインクで細かく引かれた線の累積で出来上がった画面は、美しくて、格調高く、それがこんなおぞましい物語をもうっとりさせるのかもしれない。大人が眉をひそめるより早く、子供の方がその絵の上質さに気づくのかも。
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《ウエスト・ウイング》フォト
この本はテキストなし。室内の壁や床、窓などが描かれているが、そこになんらかの不安にさせる要素があったりする。かすかに不穏な出来事や心の小さな痛みを描くのが絶妙。そういうのは私好み。「自分の使命は人をできるだけ不安にさせること」と言ったそうだが、なるほど、人は、不安なことや理不尽なことに嫌と言いながら惹かれるもの、面白い心理だ。

とは言え、なんとも可愛いなと思えるのもある。
《優雅に叱責する自転車》フォト 
そして、短歌のような短い文章もいい。これは原文が読める人ならなおさらだろうが、造語や独自のオノマトペもまた魅力の一つ。

《キャッテゴーリー》フォト
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エリオット著《キャッツポッサムおじさんの実用猫百科》フォト
こちらは、ミュージカル「キャッツ」の原本

《ボストン・ブックフェア》のポスター原画フォト
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ゴーリーは大の猫好きで、6匹の猫を飼っていた。猫には辛い思いをさせたくないので、物語の中の猫は皆楽しそうに描いたという。子供はバンバン殺しちゃうのにね(汗)
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日本も大好きで、「カンズケ」という猫は、「源氏物語」の上野親王(かんずけしんのう)から命名したそうな(そりゃまた、随分とマイナーな!)
絵本の中に時々ゴーリー自身が登場するのだが、スニーカーを履き毛皮のロングコートを着ている。
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そしてこれが自画像。スニーカーにロングコートのおじさんの後ろ姿に6匹の猫!
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即座に思い出したのが、国芳の自画像。国芳も自画像はいつも後ろ姿で周りには猫がうじゃうじゃいたっけ。解説にはなかったが、ゴーリーさん、国芳にリスペクトしていたのではないかしら。

可愛いのは猫だけじゃない。おぞましい絵本を作りながらも、母親宛の手書き絵封筒の可愛さには、絵手紙好きのフジタもびっくり。ゴーリーさん、茶目っ気たっぷりの人なのかな。
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茶目っ気といえば、キャプションの文字に時々黒丸で囲んだ反転文字があった。後半ふと気づいてメモしていったら「…ノユウガナヒミツ」になった。ああ、そうか、最初からだと「エドワード・ゴーリーノユウガナヒミツ」となったわけね。学芸員さんの茶目っ気。

さらに…。ゴーリーの作品に、トピアリーが本物になって人を襲うというのがあった。練馬美術館を出たらでかいクマのトピアリーが。これも茶目っ気?
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11月24日まで。病みつきになるゴーリー世界でした。


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