mixiユーザー(id:20649087)
2020年10月11日09:59
79 view
河内見聞記�� 57 沢木耕太郎を読む（２）
次に私を虜にしたのは、安い宿泊や移動手段を得るための交渉術。繰り返し出てくるのはリキシャ（客運三輪車）とホテルだが、リキシャの方は、私も似た体験があって興味津々で読み進んだものだ。私の相手はベトナム人、乗り物はバイクタクシーと違えこそ、やっている中身は同じ事。如何に安く目的地まで運んでもらうかの交渉をするわけである。最後の教師生活は2018年9月から翌年8月で、この時期アプリ配車のGrab（シンガポール本拠）が普及の時期で、下手な現地語でバイクタクシーと丁々発止するより余程簡単に安価にサービスを享受できるようになったので、手に汗握る交渉も過去の遺物になることだろう。言葉も英語でいけるし・・・
沢木氏の交渉の一例はこんな感じである。ガヤから釈迦が悟りを開いた地ブッダガヤまで、リキシャで移動する場面。手掛かりは上にあるような大雑把な地図だけ。距離も所要時間もわからない。先ずいくらかと聞くと、5ルピーだと数台が答える。当然の戦略として無視する。すると見事に値が下がる。また無視、下がるの繰り返し。4ルピー、3ルピー、２ルピーまでは一挙にさがる。私も何度も経験済で、日記にもこういった交渉を何回も書いてきた。ここで沢木氏、１ルピーでは？と投げ返す。すべてのリキシャが怒声でかえす、現地語だが「アホか。」「馬鹿たれ。」「とっととずらかれ。」との意味が彼らの顔色から容易に判読できる。みんなが顔を背けるか、離れて行く。少し行くと１台、群れから外れたリキシャがいて、また交渉が始まる。同じような経過で1.5ルピーまで下がるが、自分は1.25だと確信したので、長時間動かぬ展開に。だが、結局はリキシャが折れた。そして出発するものの10分いけども30分いけども着かない。だんだん氏も心配になってくる。悪いことしたかな、貧しさから抜け出せぬことになるのではと同情心も・・・そしてようやく１時間して目的地に着いた。この時間でたった1ルピーじゃなあ、と0.25のチップを足して1.5ルピーを渡した。彼の元々の要求は1.5ルピーだったのだし・・・ところが、リキシャの反応は、約束は2ルピーだった、あと0.5よこせと言うではないか。そこからまた出発時のやり取りが再現され、長い時間の末、結局1.5ルピーで話がついたのだと。やれやれ感をこちとらも持った次第・・・
私にも似たような経験は山ほどあるが、今まざまざとダナンでの経験が蘇ってくる。それはこんな話である。ダナンの中心にあるバスセンターと約4，50分の距離にある著名な観光地ホイアンの間を走るバスの車掌とのやり取りだった。私はホイアンから来るバスに、最寄りの停留所から乗車した。そこはダナンの市内だが外れの地区で終点のバスセンターまで15分くらいの距離がある。バスアプリでは全区間が50,000ドン（約250円）なので、20,000ドンくらいの皮算用で乗り込んだ。車掌は30,000ドンを払えというので払った。全区間の半分より高いので、少し高いと思ったが、まあ50円のことかとよしとした。次のバス停で乗り込んできた客が同じようにして払うお札をじっと見つめていたらなんと10,000ドン払っている。車掌も何も言わずキップを渡した。「オイオイ、それはないだろ、俺30,000ドン払ったぞ。」と、拙いながらそのくらいの言葉はできたので、20,000バックと指でバックと指し示した。顔を見ると、しゃあねえなの表情で、車掌用カバンから出して渡してきたのが5,000ドンだった。何？ここからは日本語だった。貴様、ふざけんなと、彼に近づき、カバンから咄嗟に10,000抜き取り、ポケットに入れた。我ながら素晴らしい早業だっと、今でも思い出す。
沢木の場合、同じようなやり取りがインド編を通じてたびたび出てくる。日印の文化比較になってくるが、日本人の読者が読むと、何と酷い国、人たちだとの想いを例外なく抱く内容だ。仮にインドの読者が読むと、リキシャの言動はまったく普通、日本人てなんて聖人、偽善者なんだろうと思うはずだ。私は、インドは知らない。ベトナムと中国はそこそこわかるようになった。その比較で言うと、インドは文化的に明らかに遠ざかるもので、日中越というのはなんだかんだと言っても、底流で儒教という共通基盤があるのだと思う。日本は、やはり島国、住む人々は均質で良き人々だとつくづく思う。日本人であって、本当に良かったと、いまさら思ったのである。 （つづく）
5
10
ログインしてコメントを確認・投稿する