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2020年10月10日17:56
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河内見聞記�� 56 沢木耕太郎を読む（１）
今回、旅ができなくなった私は面白い紀行文が読みたくなった。それでまず浮かんだのは沢木耕太郎。11年前退職の際にある後輩から餞別に、革製のカバーを付けた「深夜特急５」をもらっていた。彼とは新橋の飲み屋で何度となく私の旅の話をつまみにアフターファイブの時間を共にしていた。ドイツ時代にトルコ・イスタンブールの友人を訪ね、積年の夢であったドイツ人・シュリーマンが発掘した（木馬の逸話で有名な）トロイの遺跡を見た時の私の話しにある種感激をし、その連想から沢木の本を選んだということだった。バックパッカーのバイブルと呼ばれるシリーズものだというのを読後知ったのである。実はその後輩こそ沢木に似た元バックパッカーだったのだが。
コロナ禍の愉しみの一つは夢想での旅であり、読書他とも先般書いた。夢想でブラジルからポルトガルへ飛び、さらにマカオに至ったころ、今回と同様に沢木の本が読みたくて「深夜特急１ 香港・マカオ」を読み、続けて「深夜特急２ マレー半島・シンガポール」を読んでいた。今回選んだのは、その続編３ インド・ネパール編だった。因みに最初読んだシリーズ５はトルコ・ギリシア・地中海編だった。
深夜特急３、率直に言うが、先に読んだ１，２とは段違いに面白かった。面白かった点を以下に書き記しておこうと思ったのである。
沢木の旅の流儀は、その土地に溶け込もうとする点にあるように思う。最終の終着点のみは決まっているが、コースも時間も決まっていない。ニューデリーからロンドンまで1年そこらかけての旅である。所有の金も20代の若者が普通に持てる金額でしかない。土地のやり方で住み、食べ、人々や風物を観察していくのである。急ぎ足で目立つ名所旧跡類を、上から眺めてつぶしていく旅とはおよそ違う。最低限の予算なので、安宿に寝泊まりし、公共交通を利用するしかない。そこから如何に安く宿を探すか、バスやリキシャを駆使していったかなどがストーリーの骨格をなしている。カルカッタで彼は、「香港以来の熱狂で毎日うろつき回っていた」のであるが、光と影に熱狂した香港の影と見たものを、カルカッタで数日過ごした後は、「眩しいくらいに光輝いて見えた」と綴っている。同じくその土地に溶け込み、俯瞰的、相対的に見えてきたのだと思う。様々な悲惨に出会い、こっけいさに笑い、崇高なもの、卑小なものを見聞きし、「一生かかっても遭遇できない光景にぶち当たり、激しく複雑な想念が巻き起こり、何という刺激的な街なのだろう。」と総括すると共に、素直にそれが心地よいと吐露している。
カルカッタの次にガヤ、ブッダガヤ、さらにバグァと進み、インドでの滞在が積み重なっていくとき、こう述べている。ガヤの駅前では野宿ができた。ブッダガヤの食堂ではスプーンやホークを使わず、三本の指で食べられるようになった。そしてこのバグァでは便所で紙を使わなくてすむようになった。次第に物から解き放たれていく。それが快かった、と。
（つづく）
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