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2019年08月17日20:11

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うちには、天使がいます。 25.告知と、歩行用サークル

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<前回までのお話>
2018年(執筆している時点で去年)4月初め、
やまねこのパートナー・ゆかさんは卵巣に腫瘍が見つかり、悪性の疑いを指摘され、
4月24日火曜日には自宅でとつぜん動けなくなり、救急車で病院に搬送されました。
腫瘍の引き起こす脳梗塞、いわゆるトルソー症候群でした。
翌日から入院、2度めの脳梗塞の発作、腫瘍の摘出手術を経て、G.W.が終わり、
やまねこも病院に泊まりこむ生活から日常に戻りました。
ゆかさんはそのあとも、引き続き入院中ですが、
退院の話も出るくらいまで回復し、脳のリハビリ、歩行のリハビリを続けています。
(なお、病院関係者のかたがたほかの名前は、すべて仮名です)



5月14日、月曜日。
やまねこは今日からまた仕事です。
前日の日曜日はLIVEで帰りが遅くなったので、どうしようか少し迷って、
それでもやっぱり仕事のあとに病院に寄ることにしました。
いつものようにバスに乗って、18時過ぎに病院に着いて、
病棟の5階でエレベーターを降りると、
なんと目の前のロビーにゆかさんが座っているのが見えました。
母もいっしょです。

「こんばんは!」
近づいていくと、ごはんを持ってきて食べているようでした。
きのう貸し出してもらった歩用サークルが脇に置いてあります。
「ゆかさん、どうしたの?今日は」
「うん、柳沼さん今日もサークル貸してくれてね、
練習見てくれて、ここまで来て、そのままお食事していいよて。
ここまで運んできてくれたよ。びくりしたよ」
「ほんとに?ここにいると思わなかったから、やまねこもびっくりしたよ。
でも今日も歩く練習できてよかったね」
「うん。おかあさんがね、杖ももてきてくれたよ」
そのままロビーに座って、しばらくお話しました。
「ねこさん大丈夫?きのうあんまり寝てないでしょう?」
たしかにその通りなので、あまり大丈夫大丈夫とは言わないことにしました。
今夜は母もいてくれます。
まだ万全の身体とは言えないとしても、ずいぶん元気になったものです。
早めに帰らせてもらうことにしました。たまにはこちらが甘えるのもよいのでしょう。
「おかあさんあとはお願いします。ゆかさん、あしたはゆっくり来るね」
と言って、19:40くらいに病院を後にしました。


翌15日、火曜日。
昼間、市の職員さんから電話がかかってきました。
「先日申し込まれた介護保険の件で…奥さんの名前が住民票にないのですが」
介護保険のサービスは住民票のある自治体に申し込まなければ受けられないとのこと。
ゆかさんはいくつかの事情で、住民票の住所を隣町の実家に置いたままだったのです。
考えてみれば当たり前なのですが、ついつい考えが足りないのは、いつものことです。
てきぱき手続きしたつもりだったのですが、やり直しになってしまいました。
少しがっかり。

夕方には、ゆかさんからメールが入りました。
こちらはいい知らせでした。
「今日リハビリのあとカテーテルぬいてもらた!
あれいれてると動きにくいね(笑)
シャワーもリハビリのあとちょうどとれてサパリできた
リハビリうまくいけば
かさいせんせやぱり土曜退院かんがえてるて!」
ようやく採尿のカテーテルが抜けて、
あれだけたくさんつながれていたチューブやコードが、
とうとう全部はずされました。
ゆかさんの体は、自由になりました。
ただ、これからお手洗いにはその都度行かなくてはなりません。
基本的にはまだ看護師さんを呼んで車椅子を押してもらうことになりますが、
歩行用サークルを貸してもらえるならば、歩く訓練になるかもしれません。

今日も仕事のあと、病院に寄ります。
ゆかさんはとても明るい表情で迎えてくれました。
「早ければ土曜日退院てよ!」
「うん、よかった!でもあくまで『うまくいけば』だよね、
実際はもっと先になるかもしれないから、喜びすぎないようにしないと」
「でね、抗がん剤するとしたら2週間後からて言てた」
「2週間後なの?もっと早いかと思ってた。それじゃ一時帰宅と違うのかな」
急展開でやまねこも戸惑っていたようです。
この日も夕食のあとに歩行用サークルが貸してもらえて、
いっしょにお手洗いまで歩いて行ってきました。
確実に前進の一日です。


16日、水曜日。
夕方、やまねこの携帯が鳴りました。
ゆかさんの婦人科の主治医、葛西先生からでした。
「腫瘍の細胞の検査の結果が出ました。
で、その結果―良性悪性、また腫瘍の顔つきなどについて、
また退院とその後のことについてご相談したいのですが、
18日金曜日こちらに来ていただくことはできますか?」
「はい。何時くらいでしょう?18時半なら伺えますが」
「もう少し早くできますか?17時半くらいに」
「わかりました。早退できると思います」
話の内容は見当がついていましたが、
どうしてもひとつだけ訊かずにはいられませんでした。
「良性か悪性か、それだけでも今教えていただけませんか?」
葛西先生はひと呼吸置いて。

「悪性でした」

と言いました。
本当にわずかな期待を持ってはいたのですが、
覚悟はしていたことです。
「覚悟」が「現実」に変わっただけで、なにも悪くはなっていない。
でも、今夜はゆかさんには黙っておこう、と思いました。
あさって先生の口から、ほかのことと併せて伝えてもらったほうがよいのでしょう。

この日も仕事が終わってから、病院に寄りました。
ゆかさんからは
「きのうよなか2回オナカイタタなたけどきと大丈夫」と連絡がありました。
病院に着くと、今日もロビーに母が来ていました。
きっと娘のお見舞いに来るのが生きがいになっているのでしょう。
ただ、月曜日に帰りのタクシーがなかなかつかまらなかったというので、
少し心配だったりします。
「きょうね、ともだち来てくれた。たくさんお話したよ」
ゆかさんは今日もごきげんに見えました。
夕食後、また歩行用サークルを貸してもらって、
母が持ってきてくれたゼリーを食べながらロビーでお話しました。
「先生このままいけばやぱり週末退院かんがえてるて
いちど、退院のあとのせいかつについて、せんもんのかんごしさん
かんごしさん、先生、ねこさんわたし、できればおかあさんもで話し合いたいて」
「うん、やまねこにも金曜日にって連絡来たよ」
母には、実家にゆかさんを迎える準備をお願いしなくてはいけません。
今日もタクシー難民になるとたいへんなので、
19時半にタクシー乗り場に送っていきました。

ゆかさんはその前に病室に戻りましたが、
やまねこが母をタクシーに乗せて帰ってくると、
「歩行用サークル、もうひとりの人が使うて。返したよ」
と言いました。
やまねこもほどなく、20時には帰らなくてはなりませんが、
ゆかさんは「お見送りするよ」と言ってくれました。
「サークルなくて大丈夫?」
「大丈夫。杖もあるし、つかまりながらだたら、少しなら歩けるよ。
病室の出口までお見送りするよ」
「ありがとう。ゆっくりね」
手をつないで、ゆかさんは本当にゆっくりゆっくり歩きだしました。
「意外と歩けるじゃない!」
病室の出口まで来たところで、
「あ、もうひとりの人」と言いました。
廊下のむこうに、歩行用サークルにつかまって歩いている後ろ姿が見えました。
とても小柄なやせた女性で、サークルが高すぎるのか、伸び上がるようにして。
「たいへんそうね」
「うん、ゆかさんもベッドまで気をつけて戻って」

何度か振り向きながらエレベーターに向かいました。
ゆかさんが自分の足で立って、
手を振って見送ってくれているのが見えました。

(続きます)






8月はLIVE強化月間?で、あとまだ2本あります。
ご都合よろしいとき、ぜひ聴きにきてくださいね。

<今後のLIVE予定>

  8.18(Sun.)日吉Nap → http://www.hiyoshinap.com/
  Open17:00/Start17:10/Charge \1,500+1D
  ※やまねこの出演は3番め、18:45からです。


  8.25(Sun.)駒沢大学ファンラン
  Open11:00/Start14:00(予定)/Charge お食事代のみ
  ※カフェLIVEです。お食事といっしょにどうぞ。

  お会いできますように。

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