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2020年05月31日23:20

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厳しい規律と緊張感を求めて「夜間飛行」

母の愛読書だったサン=テグジュペリの「夜間飛行」(堀口大学・訳)をやっと読んだ。
子供の時は読めなかった。今も読めないくらいwwこの作品は読者に精読を要求する。コロナで外出自粛でなかったら流し読みするところだが、なにしろ家に居なきゃいけないので久しぶりにじっくり日本語の美しさをかみしめて「夜間飛行」と「南方郵便機」を精読した。

はっきり言って全編が詩である。パイロット視点で飛び去って行く山や草原が星空の描写が詩のように堀口大学訳でつづられている。
当時、「夜間飛行」は香水の名前になるほど受けた。テグジュペリは天性の詩人だと称えられた。
なにしろ「星の王子様」の作者ですし―――、
平和を愛する詩人が徴兵されて飛行機に乗せられてナチスに撃墜されて空に散った―――、
と思ってたけど、「夜間飛行」を読んだら全然そうじゃなかった。

テグジュペリは名門貴族の生まれなのに飛行機乗りになりたくてなりたくて、兵役に志願しても落ちて、それでもあきらめずに飛行機乗りの試験を受けて、何度も落ちて(どんだけ適性無いんだよ!?)やっとこさ郵便機のパイロットになった人。それでも実際に飛んでたのは4年間ほどで、おもに経営者として夜間郵便事業に携わっていたそうな。
なおかつ40代になっても飛びたくて、第二次世界大戦中にええ年こいて志願して、また滑ってwwwついにコネまで使ってやっと偵察機のパイロットになって、そいでもってある日行方不明になってとうとう帰ってこなかった。
もう、本望でしょう・・・としか言いようがない。ナチスの爆撃戦闘機も「僕らのせいにせんといてほしいわ」と思ってるに違いない。
夜間郵便事業も優雅にパリの上を飛んでいたのではなくて、しっかりフランスの植民地であるアフリカから大西洋を越えて南米への空路だ。当時はフランスとイギリスは植民地の奪い合いをしていた。蛮族や未開の地に白人ならではのドリームがあったのかもしれない。

さて、この「夜間飛行」「南方郵便機」には特に主人公が居るわけでもなく物語があるわけでもない。
パイロットたちはあるときは暴風に巻き込まれ、ある時は不時着して匪賊に襲われ、命を落としていく。レーダーも無い時代に無線一つで闇の中を飛ぶのだから無茶な話だ。ボスもパイロットたちが死んでいっても、どれだけ自分が非難されようとも夜間郵便事業を中止しない。いったん始めた新しい事業は部下が犠牲になる程度では止めることはできないのだ。「夜間飛行」はパイロットだけでなく創始者の苦悩と葛藤を描く作品でもある。パイロットたちも仲間が行方不明になったからと言って、そんなんでビビるかよと笑って飛び立っていく。
たまに地上に降り立つと妻の待つ家に帰るが、それは彼らの単なる止まり木に過ぎない。彼らは地上に退屈し安穏に生きている人々に退屈し、すぐまた飛び去っていく。
厳しい規律と命を賭した困難な任務の緊張の中にこそ、彼らは人生を生きる意味や達成感や幸福感を感じられるのだ。


29日、おりしも最前線でコロナと戦っている医療関係者の方々を激励するため、空自のブルーインパルスが都心の上空に白いラインを引いていった。
あんなもんで医療関係者が励まされるのか?と思っていたが、実際に映像を見ると感動的だ。よくあんな狭い機体間隔で揃って飛べるものだと感心する。
同じように素晴らしい緊張感をサン=テグジュペリも目指したのだろう。彼が飛んだのは青空ではなく、周りには何もない(ついでにガソリンも無い)宝石箱のような星空の中で、真下はアフリカの砂漠だったが。
それでも何故飛ぶのか?―――そこに空があるからだ。
操縦はへたくそだったかもしれないがサン=テグジュペリは“男”だった。「星の王子様」のイメージとは真逆の人だった。

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