第五章　ディオニューソスp.187

殆どの社會にも、儀禮の性格を長い間保存してゐる祭（fêtes）がある。現代の觀察者はそこに、何よりも、禁止の違反を見る。亂交が大目にみられ、時には慫慂される。ある種の社會ではそれが近親相姦にまでいたつて一般化される。かうした違反を、もつと廣い、差異の全般的消失の枠の中に登録しなければならないのだ。家および社會の位階づけは、一時的に廢止され、あるいは逆轉する。子供たちはもはや親に從はず、使用人は主人に從はず、家臣は領主に從はない。廢止または逆轉された差異の主題は、祭にともなふ飾り付けにも見られる。不調和な色彩の混淆、假裝、とりどりの衣裳をつけ、どたばたといつまでもふざけちらす道化。祭の最中では、反自然の集會も、思ひがけない喧嘩も大目に見られ、鼓舞される。

豫想されるやうに、差異の消失はしばしば暴力と爭ひに結びついてゐる。下層民は上級者をののしり、社會のさまざまな集團は互ひに相手の滑稽さと無價値を暴き立てる。無秩序と口論が猖獗をきはめる。多くの場合、敵對關係の主題はゲーム、競爭、多少とも儀禮化されたスポーツ競技の形をとつてあらはれる。至るところで勞働は停止し、人々は極度の消費にふけつて、數ヶ月の間蓄積した食料品を、集團で一擧に浪費さへする。

我々は、祭が供犠の危機の記念であることを疑ふわけにはいかない。人間たちがこれほど恐ろしい