午後六時半、G病院。体温36.9度。肺炎の熱は下がりつつあるか。鼻チューブの先にぶら下がつた袋には、薄墨色の液体あり。胃から排泄されたものか、まだ説明は聞いて居ない。また小さな吐き気がある。目がよく動き、割合快活に話す。自分の両親の名、山元トヨジとトワ。わが祖母の名は「調べてみたら、本名がトワだつた」といふ落語のサゲみたいだ。母の生家の極貧ぶりは「からくれなゐ」にまさるとも劣らない。おからならぬ、魚屋で魚のアラ(捨てる部分)を貰つてきて食べる生活である。さらにトワ婆さんは、自殺未遂を企てたことがある。最期はどのやうなものだつたかは、聞いて居ない。『銀河鉄道』のジョバンニの如く母は印刷所で働き、給料日には、飲んだくれの父親(祖父)がやつて来て給料を取つて行つたといふ。
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