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2020年09月02日11:46

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★1本だけ、連れて帰りたい。【メルマガくん:09/02号】

 草むらに向かって掛けていく子供がいます。2歳くらいの女の子です。
 舗装をした駐車場だった土地に、ある日、重機が入ってきて舗装を掘り返し、鮮やかな赤土が生々しい住宅用地に整地します。やがて「売地」の看板が立ち、売り出しが始まります。そのうち2区画に買い手がついて、目下、木造3階建ての住宅が建設中です。いまだに「売地」のままの3区画は、雑草が茂るに任せています。日当たりがいいので、ずいぶんと元気のいい草むらです。初夏には、ヒナゲシが花咲く畑でした。いまは、エノコログサが優勢です。数え切れないくらいの子犬の尾が風になびいています。
 そう。女の子が駆けていく先は、このエノコログサです。
 女の子はエノコログサを上手に採ることができるでしょうか。まだ小さいから難しいかもしれません。女の子は1人ではありません。お父さんと思われる人物も後ろから駆けていきます。エノコログサのところで、女の子に追いつきます。
 
 両手にいっぱいのエノコログサを持って、女の子がお父さんと一緒に歩いていきます。いっぱいといっても小さな子のことですから、せいぜい5本か6本です。それでも、女の子は満面の笑顔です。エノコログサは、女の子の宝物です。あるいは、お母さんへのお土産なのかもしれません。女の子は、よく太った小さな手で、しっかりと握っています。

 女の子とお父さんの姿が完全に見えなくなってから、私は小走りになって、草むらに向かっていきます。誰も見ていないのを確かめてから、1本だけ、いただいて帰ることにします。
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