「春、惜しむ」「秋、惜しむ」と、いいます。「梅雨、惜しむ」とは、あまりいいません。梅雨は惜しむものではなく、明けるもの。梅雨にはさっさと過ぎ去ってほしい。だから、明けると、ああやっと。せいせいした。そんな印象です。あえて、ゆく梅雨を惜しんでみます。
コケです。梅雨の間のコケの緑の鮮やかなことよ。在宅勤務です。仮想通勤と称して、通勤に要するのと同じ時間をかけて、近所を早足で歩きます。途中、くねくねと曲がった坂道に差し掛かります。坂道の右側に、コンクリートで出来た擁壁があります。この擁壁です。私の背より高い擁壁の表面が、びっしりとコケに覆われているのです。
ときどき、小さな子が道端の側溝に生えたコケを触っているのを見かけるでしょう。コケを触るのを、幼児にだけに任せていてはもったいない。擁壁を緻密に覆うコケは、観賞するだけではなく、手で触れてもみたくなります。乱暴に触ってはなりません。ましてや、とがったもので削って、落書きするだなんて、もっての外です。触れるか触れないか分からないくらい、そっと、が作法です。梅雨の間だけの、ぜいたくな楽しみです。
また、来年。
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