いつもの魚屋さんに行くと、キンメダイが手頃な値段です。
値段は手頃でも、キンメダイそのものは手頃な相手ではありません。自分では、さばいたことがないのです。
「アジをさばけるなら、キンメも大丈夫ですよ」と、魚屋のお兄さんが断言します。それでも不安な私は、「血合い骨(小骨)は、骨抜きで取れますか。それとも、包丁で落とす?」と、恐る恐る尋ねます。
「骨抜きで取れますよ。それに、何本もないんですよ。尻尾のほうにはない」
お兄さんの自信に満ちた発言に誘われ、キンメダイを連れて帰ることにします。店を出て、お兄さんの、「細かい鱗(うろこ)に気をつけてください。とくに頭の部分を忘れがちです。頭を捨てないで料理するなら、ここに鱗を残さないように」という助言を反芻(はんすう)しながら帰ります。
包みからキンメダイを流し台の上に放ちます。こちらを見ているわけではないのに、大きな目に見つめられる錯覚に陥ります。思わず、「よろしくお願いします」と頭を下げてしまいます。
片身は刺し身に。もう一方の片身は塩焼きに。頭はみそ汁にします。刺し身にするには、赤い皮をはがなければなりません。ほとんど自信がありませんが、実行してみると奇跡的に奇麗にはがれます。
締めのみそ汁を味わいながら、お兄さんの「大丈夫」発言に感謝します。もちろん、キンメダイにも、感謝です。
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