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2020年04月10日20:12

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作りかけのゲームブック「SAIKAI2」

プロローグ
体外離脱後の異世界で未希と再会してから半年以上が経った8月12日、お盆の前日の夜のこと。俺は強く望んでいたのだが、それまで身近に感じることも、夢に出てくることさえなかった未希が夢に出てきてくれた。その夢の舞台は、どこか奇妙な住人たちと出会いながら未希の待つ場所を探して歩き回ったあの異世界の町だった。
静まり返る夜の住宅街を月明かりと街灯の明かりがほのかに照らしていた。俺は最初に離脱した直後に落下した十字路の真ん中で仰向けに横たわっていた。すべてはあの日と同じようにやはりパジャマを着ていて、その姿はベッドで寝ているままの格好に見えた。そんな俺を5人の見知った住人たちが取り囲み、寝顔を心配そうな面持ちでーー1人だけは笑顔に見えたがーー見下ろしていた。俺は異様にも見えるその光景を見て夢の中ですぐに目覚め、その瞬間に視点が横たわる俺に移り変わった。
「お兄ちゃんがおきた! 体はどこもいたくない?」
俺を心配してそう言ったのはさなえちゃんだった。もし俺に妹がいたなら、さなえちゃんのような女の子がいいと思ったほどに現世に帰った後も忘れられない存在の1人になっていた。最初に団地の外灯の下で出会った時には横縞のTシャツを着ていたが、今は黒薔薇がプリントされた白いTシャツを着ている。たまに揺れるお下げ髪はあの時のままだ。よく見ると、他の住人たちも最初に出会った時とは違う服を着ている。
何かの拍子にまた体外離脱して、飛行が上手くいかずにまた同じ場所に落下してしまい、今度は気を失っていたのだろうか?
「さなえちゃん、久しぶりだね」
俺はそう言いながら立ち上がる。どこも痛むところはない。
「大丈夫だよ」
この町に離脱するのは未希と再会したあの日以来で、本当に久しぶりだ。あの再会は、今思うとただの再会ではなかった。再会した場所が現世ではなく体外離脱後の異世界であり、どちらも生身の肉体ではないアストラル体と霊体が出会った、次元と肉体を超えた再会だったのだ。
その後、俺は毎夜のように体から抜け出る行為を繰り返し、徐々に上達していく中でさまざまな場所へ離脱した。日本の裏側、地球内部の世界、月面、太古の地球など、しかもそう時間はかからずに……。俺には才能があったようで、ほぼ8割の確率で離脱を成功させられるようになり、すり抜けや飛行以外もできるようになった。そんな今の俺にとって、この町に離脱するのは町の情景をイメージするだけで可能なはずであり、今や難しいことではないだろう。だが、俺はためらっていた、またこの町に離脱するのを。その理由は、未希と過ごした楽しかった思い出に浸るだけではすまず、言い表せないほどに悲しかったあの、俺の人生の中での最大の別れーーになるのは間違いないーーを思い出してどうしようもなくなり、未希のいない世界で生きることの意味を見出せなくなりそうで怖かったのだ。俺は現実世界で生き続けるという未希との約束を破るわけにはいかなかった。
「どうしたのお兄ちゃん? さなえの目を見つめたまま、ずーっと考え込んでいるんだもん。お兄ちゃんって本当に面白いんだね」
さなえちゃんはそう言って、無邪気に笑い出す。
釣られて俺も笑った。その時だった。
さなえちゃんの背後から、セーラー服姿の髪の長い少女がこちらへ向かってゆっくり歩いてくるのが見えた。俺はその姿を見て、この町で未希の姿を初めて見た瞬間のことを思い出した。あの達成感と嬉しさは一生忘れないだろう。
俺はすぐに未希だと確信し、こちらへ向かってくる少女の方へ駆け出した。
「未希!」
その少女は紛れもなく未希だった!
「会いたかった、本当に。またこの町で会えるとは思ってなかったよ」
そう言う俺に未希は微笑みかける。そのいつもと若干違う、いくつもの何かを秘めたような表情に、今の俺と同じようにあれからさまざまな経験をしたらしいことがうかがい知れた。
「何で今まで夢にも出てこなかったんだ?」
「ごめんね。信治のことを忘れた日はなかったんだけど、どうしても霊界から出られなかったの。だから、信治に会いに行くことができなくて。でも、今日は特別に夢に出てこれたよ」
「じゃあ、これは夢なのか?」
「うん。今夜中に信治に伝えたいことがあって」
「何だ? 伝えたいことって」
「明日からお盆だよね。お盆の間は夢だけじゃなくて、現世にも姿を現わすことができるの。でも信治は霊感がないから、私の姿が見えるのはアストラル体の状態、つまり体外離脱後の異世界でだけだよね」
「ああ、そうだな。何で俺には霊感がないんだ!」
俺は改めて霊を見れたり、霊と会話できる霊感が自分にないことを残念に思った。
「それは仕方ないよ。ある人より、ない人の方がずっと多いんだから」
未希はそう言って、俺を慰めてくれたのだが。考えてみたら、俺の家族や親戚には霊感のある人間はいなかった。未希の方はどうなのだろうか。
「私ね、お盆の間は霊界にいなくていいんだ」
「そうなのか? 霊界にいる必要がある時は何をしてるんだ?」
「前世の反省や来世の準備とかかな。いずれ信治もすることになるよ。……それでね、伝えたいことっていうのは、お盆の間にまたここで会えないかなと思って」
「もちろん会えるよ! 今の俺は、最初に離脱した時と比べようもないぐらいに体外離脱に関してはいろいろ上達したんだ。だから、今回は自力でこの町に離脱することができるよ。しかも、離脱できる時間もかなり増えてきているから、前回よりも長い間一緒にいられると思う」
「それは時々霊界から見ていたよ。生身の体では到底行けないようないろいろな場所に行ったね。私も一緒に行きたかった」
未希はそう言うと、ややうつむいて悲しそうな表情をした。
”私も一緒に行きたかった”
未希の最後の言葉に本心を垣間見たような気がして、俺も悲しくなった。
「今回は離脱した後にすぐ会えるよ」
未希は無理に笑顔に戻してそう言った。
「そうなのか!?」
「うん。信治にまたあんな大変な思いをさせたくないもん」
「あの時みたいに町を歩き回って探さなくていいんだな」
「そうだよ。でも、また私が待ってる場所を探すこともできるけどね。今度は途中でテレパシーで話しかけたりしないから、探すのは難しくなるかも」
未希はいたずらっぽく微笑む。
「難しくなる、か……」
前回慣れない離脱後の異世界で未希を探し出すことに成功した俺は、さらに難しいことに挑戦したいという気持ちも芽生えた。未希は考え込んでいる俺を見て言った。
「離脱後すぐに会いたい時は、町の南の外れにある砂浜に離脱してきてね。信治よりも先に着いて、また待ってる。じゃあ、今夜を楽しみにしてるからね」
未希は一瞬光りに包まれたかと思うと、笑顔で手を振りながらスッと消えた。
俺は未希がいなくなった町に1人佇んでいた。不意にさなえちゃんたちのことを思い出し、背後を振り返った。そこにはすでに誰もいなくなっていた。本当に1人で佇んでいたようだ。
俺はそこで目が覚めた。やはり夢だったのか。未希の顔を久しぶりに見て、声も聞けたのだから夢でも満足だった。俺は自分の目元が濡れているのに気がついた。部屋の中は外から吹いてくる風でそれほど暑くはなく、汗ではないことはわかった。

仕事も4日連休に入った俺は、あれから明日の夜のことが気になってなかなか寝られず、いつの間にか寝ていて起きたのは昼が過ぎた頃だった。今夜は離脱後のあの町で久しぶりに未希と会えるのかと思うと、夜が待ち遠しくて仕方がなかった。確実に離脱するためにも、最近購入してすでに読み終えていた『体外離脱〜上級編〜』を1ページから読み直していた。著者は初級編と同じレイモンド・ザイガーというオーストラリア人男性だ。近影には月明かりに照らされた夜の海をバックに、ダウンジャケットを着た見覚えのある金髪男性が写っており、写真の下には「離脱後の海にて」と書かれている。そう、やはり著者は彼だったのだ。俺が最初に離脱して出会ったあの砂浜で撮られたものかは不明だが。初級編にも近影の写真があったが、彼がまだ若い時のもので、異世界で出会った時には気がつかなかったのだ。
上級編を読み終えたのは、あの日、泣き疲れて時計を見た時と同じ、夜の7時過ぎだった。ひとまず離脱しやすいようにリラックスできる夏用の半袖のパジャマに着替えるが、離脱後なら服装は自由に変えることができる。その方法は上級編を読んで学んだ。前回はセーターを上に着たが、今は夏真っ盛りだから暑くて途中で起きてしまい、離脱どころではなくなってしまう。もし手編みでなくとも夏用の服もプレゼントされていたとしたら、前回のように離脱前に着たに違いなかった。
今の俺は約30分で離脱できる。
まずは部屋を静かにするためにテレビやラジオはもちろん、扇風機やエアコンも消しておかねばならないが、暑くて寝られないといけないからカーテンと窓だけは半分ほど開け、網戸は閉めておく。そうしないと、蚊に刺された痒さで離脱中に肉体に引き戻されたら困るからだ。体の痒みによって離脱復帰するのも困難になる。
離脱する用に寝ている状態で電気の紐を引けるようにビニールの紐を結びつけ、長くしてある。ベッドに仰向けに寝て、手の届く高さに垂れているビニールの紐を引き、部屋を真っ暗な状態にする。必ずこのポーズから離脱を開始するようにしている。
全身をリラックスさせ、しばらくまどろむ。すると、徐々に体が金縛りで動かなくなってきた。いつものように勢いよく寝返りするイメージで体を回転させ、肉体からアストラル体を引き剥がそうとする。

サイコロを2個振り、出た数から4を減らす。

1以上残ったら へ
0以下になったら へ

1
俺は感覚的に目をつぶった状態でふわふわと宙に浮いている。離脱成功だ! 目を開けたらーーこの時も感覚的にーー下にはベッドに眠っている俺が見えるはずだが、そうはしない。目を開ける前に行きたい場所を映像としてありありとイメージする。そうすることで異世界の入り口である現世とは若干異なる自分の部屋から浮遊して外へ出るのを省略し、時間や空間を越えて瞬時に行きたい場所に瞬間移動することができる。
俺がイメージしたのは……。

前回最初に落下した十字路 へ
団地
公園
砂浜
交番
遊園地

工場
小学校
屋敷
ゲームセンター
本屋
空き地
アパート
デパート
公衆電話
コンビニ
玄関のドアが半開きの家
レストラン
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