マスクをつけられない人への冷たい眼差し

■やむをえない事情で“マスクをつけられない人”がいると知ってほしい　「わけがありますく」プロジェクトを取材
(ねとらぼ - 2020年08月01日 20:03)
https://news.mixi.jp/view_news.pl?media_id=128&from=diary&id=6179476

■患者がマスク拒否、対応した看護師感染　防護服など着用
(朝日新聞デジタル - 2020年07月29日 11:28)
https://news.mixi.jp/view_news.pl?media_id=168&from=diary&id=6174783

>　「マスクの着用ができないから外を歩くと白い目で見られ続けてつらい」
>　「マスクを着けていないといつ暴力を振るわれるかと心配で怖い」

　もう２月の頃から、マスクを付ける理由は、感染云々は関係なく、これになっちゃってるんだよなあ。
　ウィルスよりも人間の方が怖い。
　たくさんの人がそう呟いているけれども、自粛警察の中には「マスク警察」と呼ぶべき一派も確実にいるのである。
　先日のマスク着用を拒否して院内感染を広げちゃった患者さんへのバッシングを見てご覧よ。その患者さんにも何らかの事情があって、マスクを拒否したのかもしれないという可能性は微塵も考えない。記事にもある通り、感覚過敏、脳の障碍、皮膚炎、呼吸器の病気などがあったら、マスクを付けられない場合だってあるんだから。高齢者なら、それらの可能性、結構あるよ？
　感染した看護師さん、慌てていてフェイスガードを着け忘れたって話だけど、看護のプロのはずなのに「うっかり」だったことの方が問題なんじゃないの？　どうして最初の感染者の方「だけ」責められなきゃならないのさ。
　ともかく感染者を病原菌扱いして、差別、ないしは排除しようって人間は、そこいらにゴマンといるのである。

　現実に、マスクを付けていない相手への暴力沙汰はもう数えたくもないくらい各地で起きている。日本人の心性とか民度って、こんなに低劣で野蛮なんだなと嘆いたところで仕方がない。「糞野郎の暴力から自分を守るために」マスク着用は推奨されなければならないと思う。

　私も慢性鼻炎で、喘息気味と診断されたこともあって、空気の悪いところに行くと、覿面で咳が出る。近くに寄ってきた人が、何か妙な微粒子でも付けていたりすると、やっぱり咳が止まらなくなる。その状態でマスクを付けていなかったら、もうどんな目に遭わされるものやら、マジで恐怖なんだよ。マスク不足の折にも買いだめをしていたから、不自由はなかったのだけれど、もしもマスクが入手できずに素顔で買い物にでも出ようものなら、背後から誰かに刺されていたかもしれない。
　これが冗談や杞憂だろう、と仰る方には、ぜひ、マスクを付けずに半日くらい外出してみて頂きたいと思う。何ごとも起きなければ、それはあなたがとてつもないラッキー･ボーイorガールだということを証明することになると思う。

　ともかく、この数ヶ月間、感染拡大のニュースが出るたびに、ネットでの誹謗中傷は度を超して激しくなるばかりである。もちろん、自分も感染したら同じ立場に置かれるんだよ？　などと言って窘める意見もあるのだが、殆ど焼け石に水である。
　私も、外出しただけで叩かれるのはおかしいと何度も繰り返して自粛警察批判をしてきた。各自治体の首長が自粛しない店舗の名前を公表するなんて、差別を助長するも同然だと反対してきた。同様の意見を持つ人、そう発言する人が一人でも増えれば、この陰鬱な風潮に歯止めをかけられるんじゃないかと考えたからだ。
　でも世間ってのは、やっぱり、感染者を扱き下ろし、蔑み、罵倒する方が楽しいんだね。どこそこに出かけていったのが悪いって、もう今は、３密じゃなくたって、感染してもおかしくない状況じゃないか。濃密接触を避けるに越したことはないが、だからと言って、会話もふれあいも完全遮断するなんて、不可能だってことは、誰にでも分かるじゃないか。

　岩手の初感染者に対しても、酷いバッシングが行われていたが、キャンプみたいな開放的な空間で感染したのなら、これはもうどうしようもなかったと言わざるを得ない。
　これも繰り返し書いてきたことだけれど、感染者を非難できるのは、今年に入って以降、完全に引きこもって誰にも会ってない人間だけだろう。
　通学、通勤も、近所に買い物に行くだけでも、感染する、させる可能性はゼロではないのだ。それは許容されて、遊びはダメなんて線引きをしたって、ウィルスが忖度してくれるわけじゃないんだよ？　不要不急の用事だろうが、必要至急の用事だろうが、ウィルスは等しく私たちを襲うのだ。出かけた時点で、感染リスクは誰にでも降りかかってくるものなのだ。
　それなのに、誰かを選って責めてもいいと考えるその見方が、紛れもなく「差別」なんだよ。責めても構わない感染者なんて、ただの一人もいやしないのだ。

　てなことを言っても、差別が楽しくて仕方がない連中には暖簾に腕押しなんだろう。「マスクをつけられません」バッジについても、コメント欄を見たら、配慮してもらおうなんて迷惑だとか身勝手だとかふざけるなだとか、酷い言葉が並んでいて、しかもイイネが結構な数、付いている。
　この連中が、これまでおとなしく引きこもって自粛していたのなら立派なものだが、おそらくそんなやつは百人に一人もいないだろう。そして彼らは、実際にバッジを目にしても、見てないふりをして、なぜマスクをしないんだよと絡んできて、暴力も振るうのだ。それが彼らの「正義」だから。

　マスクをつけられない人には、本当に外出を自粛してもらうしかないのかもしれない。自粛と言うよりは「自己防衛」だけれど。差別する側に、差別される側が屈してしまうのは理不尽極まりないが、じゃあどうすればいいかって、誰も守ってはくれないのだもの。自分で危険を避けるしかないのだもの。どうしようもないじゃん。
　今や「外の世界」は、いじめ無法地帯と化している。「ヒキコモリ」は正しい。そう言わざるを得ないのが冷酷な「現実」なのである。