童話って,知っているようで知らないことが多い。題名や主人公の名前は知っているけれど,意外に読んだことがないんじゃないでしょうか。
『オズの魔法使い』を読み始めて頭の中を巡ってきたのは,ロバ,イヌ,ネコ,ニワトリが協力して何かをやっつけるシーンでした。でも,読み進めていくにつれて,「ちょっと違うぞ」と思い至りました。それは,『ブレーメンの音楽隊』でした。ドロシーとかかし,きこり,ライオンという”4人”がかぶってしまいました。
オズの魔法使いってどんな魔法使いなのか,今回読んで初めて知りました。実は,冴えない何のとりえもない中年の男でした。もちろん魔法なんていっさい使えません。みんなから恐れられているのは大魔法使いだと誤解されてしまったからです。オズはそのことがばれないように必死に誤魔化していました。
オズはそんな苦しい境遇から一刻もはやく逃れたいと思っていました。ドロシーたちが来たのが脱出するいいきっかけになったようです。オズは気球に乗ってエメラルドの都から飛び立っていってしまいました。
主人公としてはとびっきり無責任です。
そんないいかげんな魔法使いだったんです,オズは。でも,オズはけっこういいこと言っています。私はこの物語を読んで,やっぱりオズが,この物語でいちばんの”人物”なんだと思いました。
<以下引用>
P178
「おれに脳みそをくれることはできないのか?」かかしが聞いた。
「あんたには必要ないよ。毎日毎日,あんたはいろんなことを学んでいる。脳みそなら赤んぼうにだってある。でも赤んぼうはあんまり何も知らないだろう。知識を授けてくれるのは,経験だ。そしてその経験は,あんたがこの世で生きていけばいくほど,手に入る」
——(中略)——
「そうか」そしてため息をついた。「いま話したとおり,私にはりっぱな魔法の力などありはしない。でも明日の朝,私のところに来るなら,あんたの頭に脳みそを詰めてあげよう。でもその使い方までは教えることができない。それはあんたが自分で見つけるんだ」
——(中略)——
「でもわしの勇気はどうなる?」心配そうにライオンが聞いた。
「勇気に満ちているじゃないか,あんたは」オズがこたえた。「あんたに必要なのは,あとは自身だけだ。危険を目の前にしてこわがらない生き物など,どこにもいやしない。本物の勇気というのは,こわいと思いながらも危険に立ち向かうことだよ。そしてそういう本物の勇気を,あんたはもうたっぷり持っている」
——(中略)——
「ぼくの心はどうでしょう?」ブリキのきこりが言った。
「ああ,それなら」オズがこたえる。「そもそも心をほしがるというのがまちがっている。心というやつは,むしろたいていの人を不幸にしてしまうんだ。それさえわかれば,心がなくてよかったと思うよ」
<以上引用>
脳みそ
心
勇気
いったい何がいちばん大切なんでしょう。で,ドロシーがほしかったのは?
ログインしてコメントを確認・投稿する