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2020年11月29日06:10

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イースター島原住民はモアイ像を運ぶためにヤシの木を過剰伐採し、文明崩壊に至ったのか:ダイアモンド博士への反説

 ジャレッド・ダイアモンド博士(UCLA教授)は僕の大好きな博物学者だ(写真)。ピューリッツァー賞を受賞した名著『銃・病原菌・鉄』をはじめ、日本語に訳された氏の著作は、全部、読んでいる。

◎ダイアモンドのイースター島の「文明崩壊」の警告
 もともとは鳥類学者として出発し、ニューギニア島でのフィールド調査で進化生物学、人類学、考古学への学識を深めた。僕も本欄で、何回も氏の業績に触れている。
 ただ、それでも専門外の細かい領域になると、勇み足は免れない。
 例えば氏の『文明崩壊』では、奇っ怪な巨大石造モアイ像を製造し、海岸に運搬するため大量の木材を消費してしまい、島全体から森が消え、つれて食料となる野生動物もいなくなり、やがて部族抗争が起きて人口が激減、人肉食が起きるほど文明は後退したと述べている。実際、18世紀に白人がイースター島に到達すると、そこに観たものは、1本の木も生えていない荒れ地と海岸の巨大モアイ像であった(絵=1774年にジェームズ・クック隊がイースター島を訪れた観た立像のモアイ像、写真も)。またヒトが島に住み始めるまでは、イースター島全島は森林に覆われていたことも花粉分析から分かっている。

◎ハワイ大学研究者の反説
 ダイアモンド博士の説は、それまで様々な研究者の指摘したことだったが、博物学者、文明批評家として知名度が高く、氏の著作の多くがベストセラーになったことから、資源の過剰収奪に伴う現代世界の崩壊の危機への警鐘として有名になった。
 荒廃した環境のイースター島を目にする文明人は、ダイアモンドの指摘に納得するのだが、ことはどうもそれほど単純ではなかったらしい。
 それを初めて科学的に明らかにしたのは、ハワイ大学のT・ハント博士らで、花粉分析などから島を覆っていたのはチリサケヤシ(写真)という著しく成長が遅い巨木であり、イースター島先住民が島に伴ってきたネズミが天敵のいない環境で急激に増加してチリサケヤシの実をかじってダメージを与えたこと、そしてモアイを運搬するのにチリサケヤシは使われなかったこと、などを指摘した。

◎航海者が連れて来たネズミの大規模食害
 ここで「先住民が島に伴ってきたネズミ」という記述に注目していただきたい。海洋民がアウトリガーに乗って移住の過程で積み荷に隠れていたネズミが島に紛れ混んで可能性もあるが、研究者の中には食糧にするために「家畜」としてネズミを連れてきたということを指摘する人たちもいる。僕も、後者の可能性が高い、と思う。
 さて、ともかくも島に来たネズミにとって、イースター島は天国だった。ネコなどの天敵はいないし、そこには食物となるチリサケヤシの実が溢れていたのだ。おそらく爆発的な激増となったであろう。実際、イースター島で発掘調査すると、魚の骨よりもネズミの骨の方が多く出土する。ネズミが食糧とされていた傍証である。

◎チリサケヤシ、半端でない成長の遅さ
 ここで、聞き慣れないチリサケヤシという木にも説明が要る。チリサケヤシは、同じヤシ科植物でも、ポリネシア人になじみのあったココヤシとはかなり違う。果実は直径2センチほどしかなく、ジュースも果肉もない(写真)。ヒトが食料にするには心許ない。しかしネズミなら、堅い実も簡単に囓れる。
 しかも、成長の遅さは半端でない。ロンドンの有名なキュー植物園に植えられたチリサケヤシは、植えてから花が咲くまで100年以上もかかったという。

◎モアイ像運搬にコロは要らない
 つまり、無人のイースター島でゆっくり育まれてきた森林は、13世紀に突如やってきた人間とネズミによって急速に破壊され、再生産できずに消滅した可能性が高いのだ。
 ちなみに巨石を山で成形し、海岸に運ぶのに、コロにする木材は要らない。実験考古学で、ロープだ引っ張ると、モアイ像は歩くように動くのだという。これは、「モアイが歩く」という伝承とも合致する。
 ただ、それでもポピュレーションを増やした人類が、ネズミと共に狭い環境の島の植生を破壊し、人口崩壊が起こったのは確かである。
 なお参考に、19年6月8日付日記:「『イースター島の悲劇』が8世紀の古代日本の奈良にも、今の奈良は古代の環境破壊の跡」もお読みいただきたい。

注 容量制限をオーバーしているため、読者の皆様方にまことに申し訳ありませんが、本日記に写真を掲載できません。
 写真をご覧になりたい方は、お手数ですが、https://plaza.rakuten.co.jp/libpubli2/diary/202011290000/をクリックし、楽天ブログに飛んでいただければ、写真を見ることができます。

昨年の今日の日記:「樺太紀行(63=最終回);鉄道歴史博物館を見終え、ユジノサハリンスク空港から帰国へ」

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