マネーは、臆病である。
少しでも不安があれば、安心できる所に逃避する。
◎香港市民は静かに香港ドルを売り、米ドルを買う
今、香港で静かに香港ドルを手放し、米ドルを買う人が増えているという。両替屋の窓口に連日、列が出来、係員が追い払っても追い払っても引きも切らない(写真=上は米ドルへの両替に並ぶ人たち、下は香港ドル通貨)。
その中には大陸からやってきた客も混じる。
現在、香港はドルとペッグ制をとっていて、1米ドルは7.75〜7.85香港ドルの狭いレンジに固定されている。香港ドルが売られ、米ドルがこの上限に達すると、香港通貨当局は米ドルを売り、香港ドルを買い支える介入を行う。
今のところ、豊富な外貨準備があるから、香港ドル買い支えの原資に不自由しない。
◎民間銀行が香港ドルを発行する一方、それと同額の米ドルを当局に納付
香港ドルの場合、その紙幣は民間銀行(香港上海銀行、スタンダード・チャータード銀行、中国銀行)が中央銀行に代わって発券する特殊な仕組みになっている。
発券銀行は、香港ドル紙幣を発券するたびに、紙幣の額面と同額の米ドルを香港の金融当局に納めることが義務付けられている。その結果、発券された香港ドルは政府の米ドル資産によって100パーセント保証され、信認される。また香港ドルと米ドルの相場は固定されやすくなるというわけだ。
現在、香港政府はマネーサプライの約9倍にも及ぶ外貨を保有しており、香港ドル相場に安定をもたらす大きな力となっている。
◎金融政策の自由はない
しかしドルペッグ制は、為替相場に安定をもたらす半面、デメリットの多い制度でもある。特に問題なのが金融政策の自由を奪われることだ。
ドルペッグ制を採用しているせいで、香港の政策金利はアメリカと連動せざるを得ない。アメリカが利下げ(金融緩和)をすれば香港も金利を引き下げ、アメリカが利上げ(金融引き締め)に転じれば、香港もそれに追随するしか方法がないのである。
とどのつまり、米ドルとの固定相場の代償として、金利政策も米国に「右にならえ」するしかないのだ。
◎米金利は歴史的な低金利で米ドル買いラッシュはないが
香港の景気は、昨年の大規模民主化デモ以来、落ち込んでいる。今年は武漢肺炎で本土からの中国人観光客の流入がないから、よけいである。
幸い、ペッグ制を敷いているアメリカの金利が史上最低水準にある。もしアメリカの金利が高ければ、マネーは水と違って低い所から高い所に流れるから、香港ドルは売られ、買い支えに湯水の如く米ドルを売るしかない。その一方で、香港も金利高に誘導せざるをえない。そうなると景気悪化に、さらに拍車がかかる。
しかし今や香港市民は、自国通貨である香港ドルを信用していない。余裕があれば、少しでも米ドルで保有しようとする。
◎いずれ決壊か
この流れが目立たないうちはいいが、奔流となって堰を切りかねないようになったら、香港政庁もスターリニスト中国もどうしようもない。
その時は、国際通貨でなく交換性も乏しい人民元に強引にペッグさせるしか手はない。つまり香港人は、人民元という名の紙切れを与えられるのだ。
そのリスクが高まる、と思えば、香港人は、ますます香港ドルを手放して米ドルを買おうとするだろう。
香港国家安全維持法の施行で、紙切れを手にさせられる恐れは高まっている。だから、香港人は静かに銀行で米ドルを買っているのだ。
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