去る11月22日、神奈川県相模原市に設置されるリニア中央新幹線の中間駅「神奈川県駅(仮称)」の起工式が行われた。
◎静岡県は南アルプス山脈を通るだけ
両端の品川駅と名古屋駅の建設は始まっているが、中間駅の起工は初めてだ。
しかし2027年の開業を目指すリニア中央新幹線品川−名古屋間の行方は、不透明感を増している。
それは難工事が予想される南アルプストンネルの静岡工区が着工できていないのだ。
リニア新幹線は、東京・神奈川・山梨・静岡・長野・岐阜・愛知を通るが、静岡県だけ天狗の鼻のようにわずかに北に延びる南アルプス山脈の山岳部をトンネルが横切る(図)。
南アルプスの山の中なので、静岡県は唯一通過県となり、駅が出来ない。
◎大井川水系に悪影響と異議
これが静岡県知事の川勝平太の気にくわない。JR東海に、トンネルで出る湧き水を排水すると、大井川の流量に悪影響が及ぶとして、工事着工に待ったをかけているのだ。
トンネル工事に出水はつきものだ。しかもこの辺は、多くの断層が予想され、そこを掘る時は大出水が予測される。これは約1世紀前の丹那トンネル掘削工事が大難工事になった原因で、大量の水を排水したためにトンネルの上の丹那盆地で渇水が起こった(本年12月3日付日記:「1世紀前に建設が始められ、開通まで15年半もかかった丹那トンネル建設工事、多数の事故犠牲者の中に朝鮮半島出身労働者」を参照)。
確かにこの点で、川勝の異議にも正当性はなくはない。
◎JR東海が前言を訂正――川勝を意固地に
だからJR東海は、出た水は全量、川に戻すと約束した。
何もほんの一部線区の地下を通るトンネルに、知事の許可を得る必要はないと思うが、JR東海としては今後のことも考え、できれば川勝からウンという許諾を得たいのだ。
ところが約束はしたが、その後、JR東海は工事中の一定期間は全量を戻せない、と言い直した。
これが川勝をさらに意固地にさせた。
そもそも川勝平太という人物は、出ない、出ないとさんざん気を持たせ、自民党にも色目を使いながら、2009年、日の出の勢いだった民主党に担がれて知事になった男だ。節操がないポピュリストである。
◎東海道新幹線とリンクさせる難題
川勝のリニア妨害は、静岡県に直接のメリットがないことにある。だから問題を長引かせても、静岡県に失うものがない。それをいいことに、ゴネている。しかしこの態度は、沿線の他の知事に反発をかっている。
川勝の「リニア妨害」の思惑は、2021年の4選目に当たる知事選にあるというのがもっぱらの観測だ。JR東海には、その際の大きな力になる「勲章」をもらおうとしていのだ。
具体的には、川勝が注力する静岡空港の直下を通る東海道新幹線に新駅を造らせること、さらに静岡駅に「のぞみ」を停車させること、などだ。
◎静岡空港下に新幹線駅を造らせたいという思惑
そもそも静岡空港(写真)は、最初から必要性と採算性に疑問符の付いていた空港だ。実際、開業したはいいが、東京、大阪、名古屋に至近のために、JALもANAも乗り入れない。地元の小規模航空会社だけが、札幌、福岡、鹿児島などに週単位で運行している。
つまりJR東海にすれば、多額の建設費を投じて新駅を造っても需要が見込めない。静岡駅の「のぞみ」停車も、ダイヤを窮屈にするだけだ。
逆に川勝にすれば、JR東海に新駅を造らせるなどに成功すれば、大きな「勲章」になる。
◎あと少しで2027年開業に赤信号
事態の混迷を見かねた国土交通省がJR東海と静岡県との間の仲裁に乗り出したが、これにも川勝は難色を示している。
実際のところ、南アルプストンネル工事の着工が遅れれば、2027年の開業は遠のく。そのタイムリミットは年内、とも言われているが、それでもJR東海には多少の余裕はありそうだ。しかし開業延期となれば、建設コストが膨らみ、JR東海の収支が悪化するのは間違いない。
1人の男のエゴに、国家的プロジェクトが振り回される愚は、これまでに何度もあった。誰か川勝を止める人物は現れないものか。
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