昨日、テレビを見ていたら、千葉県山武市の停電禍が放送されていた。いわずとしれた台風１５号による倒木被害に伴うものだが、山武市は昨日現在、千葉県内約４万８４００軒の停電中のうち６９００軒も残っていて、停電件数が最多の街、と現場ルポされていた。
◎「山武杉」の産地、山武市
それで、ピン、ときた。
山武市は、「山武杉」の産地として名高い。起源は江戸時代にまで遡るようだが、戦後間もなく、県の林業試験場の指導もあってせっせと丘陵地に杉を植えた。いずれは、有力な産業に育つと期待したのだろうが、その後の輸入洋材に押され、育った山武杉は売れず、また林業も育たなかった。
実際、テレビで映し出す光景は、台風により杉の木があちこちでなぎ倒され、それが電信柱を倒したり、電線を曲げたりしている光景だった（写真）。途中から折れているのではなく、根こそぎ倒れている。舗装した道も、舗装が見えないほど、倒木と枝で埋め尽くされていた。
◎地震被害でも人工林がそっくり地滑り崩落
前にも述べたことがあるが（１６年４月１９日付日記：「熊本地震の悲劇を増幅させた過去の遺産；阿蘇山噴火のテフラとネアンデルタール人との交雑」を参照）、杉などの針葉樹の根は浅い。斜面に人工的にびっしりと植えた植えられた杉は、豪雨や地震による激しい振動を受けると、杉林ごと地滑り崩落していくことが多い。
山武市の倒木は、斜面でこそなかったが、ほぼ平地でも同じである。猛烈な風を受けると、根こそぎ倒れる。実際、大きな杉の木が、さほど根もはらずに根元からあっさり倒れている映像も映された。
これがブナなどを含めた雑木林だったら、それほど倒木被害は受けなかっただろう。
◎「最後に通電した街」となるか
こうした二次被害のリスクは、地域の一部の人たちにも懸念されていたようで、グーグルで検索すると、「山武に雑木林をつくる会」というブログがヒットした。しかしこの活動も広く共有されたものでなかったようで、２年前の１月８日以降、更新されていない。
杉林は、むろん個人の所有林である。金と手間をかけてそれを伐り、雑木に植え替えるなど酔狂なことは、山林所有者は誰も考えまい。
しかし強力な台風に襲われると、杉林は一転して災厄のタネになる。電柱や送電線をあちこちでなぎ倒し、広範囲に及ぶ二次被害の大停電を引き起こす。
原発がずっと停止中でカネのない東電も、世間の非難をかわすべく復旧に全力を挙げるが、あまりにも広範囲に広がる杉の倒木に、まだ手をつけかねている所が多い。おそらく山武市は、停電復旧最後の街、最後に通電した街という不名誉な尊称を受けるだろう。
生態系に合った自然林は、農林業には無価値かもしれないが、災害には強い。
せめて停電禍が、雑木林、自然林を見直すきっかけになってほしいと願う。
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