投稿日:2007年 9月 4日(火)20時40分34秒
第四話「茶店にて」
承前
件の茶店は、堀(というか川なんですね、これ)を挟んで岡山城の真向かいに在り、窓からその勇姿が見渡せます。
冷房をする心算は全く無いらしく、入り口も窓も全開で、心地好い川風が吹き込んで居ました。
地ビールは直ぐに出て来たので、何かツマミでもと思ったのですが「ままかりは夜に食べようね」と約束しています。
諦めて食事を頼みます。
モグラ:「うどんは何があるの?」
おばさん:「暖かいのなら、親子うどんが。冷たいのなら・・・。」
モグラ:「それでいいや。それ下さい。」
おばさんは、素早く「伝声管」を握ると「親子うどん一丁!」と叫びました。
どうやら、作る所は別にあるようです。
ビールをコップに注ぎ、一杯目を飲み干します。
モグラは入り口傍のテーブルに腰掛けたのですが、窓側に座敷があって20代と思しき男性が所在無げに座っています。
男性の前には「そばつゆ」らしき物がぽつんと置かれているのですが、他には何も見えません。
とりあえず人心地付いたモグラは、二杯目を注ぐと川面に目をやりました。
おや、白鳥型の足漕ぎボートが一艘動いています。乗っているのは60代の浮浪者風のおじさんです。
舫ってあるボートにぶつかったり岡山城の下まで彷徨ったり、おじさんは然程楽しそうでもなく無表情にボートを(足で)漕ぎ続けていたのでした。
座敷の青年の前に「ざる蕎麦」がやって来ました。
やはり、蕎麦は後回しで「つゆ」だけ先に出ていたものと思われます。
変わった出し方と思いましたが、実害はないから良いのでしょう。
モグラの地ビールも、コップ二杯半で他愛もなく無くなりました。
そこへ例の「親子うどん」が出て来たのですが・・・、「親子丼」そっくりの匂いがします。
一口食べてみます。「親子丼」の味です。
そう、これは「うどん」の上に「親子丼」の具と汁をかけた作品なのでした。
モグラ:「不味くはないが・・・、う〜む。」
実際「親子丼」だとしたら結構モグラ好みの味付けだったのですが、鶏肉とタマネギの卵とじの下にあるのが「うどん」となると話は少し違って来ます。
モグラ:「いや、結構美味いかも知れないけど・・・、これはうどんか?」
そう、早い話が、「うどんを食ってる気が全くしないうどん」だったのです。
味はあくまで「親子丼」。
結局完食してしまいましたが、汗がどっと噴き出して来ました。
この季節に「熱いうどん」は、ちょっと無理があったようです。
仕方がないので後楽園内で風に吹かれて涼むことにして、モグラは席を立ったのでした。
続く
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